弁護士が受任した事件において、相手方などの財産を調査しなければならないというケースはしばしばあります。
例えば、遺産相続の事案においては、被相続人と行き来がなかったことが原因で、被相続人が保有していた財産が分からず、財産調査が必要になることがあります。
また、貸金等を回収する債権回収の事案においては、訴訟において、勝訴判決が得られたとしても、差し押さえるべき債務者の財産が不明であり、強制執行の対象となる財産を調査する必要が生じることがあります。
もちろん、弁護士に依頼しても、必ずしも財産の調査が功を奏するというわけではありません。しかし、弁護士会照会制度(23条照会制度)の活用など、弁護士でなければできない財産調査の方法も存在しますから、弁護士に依頼する意味が大きいケースもあります。
本記事においては、遺産相続と債権回収の事案を中心として、弁護士による財産調査について、ご説明いたします。
預貯金の調査

まず、遺産分割の事案において、被相続人との行き来がなかったことから、被相続人が生前保有していた預貯金が分からないということがあります。
被相続人の自宅内の郵便物からどのような預貯金を保有していたか分かれば良いのですが、これまで被相続人と同居してきた他の相続人が、郵便物を含めて、その内容を開示してくれないということは少なからずあり得ることです。
このような場合には、まず、被相続人が生前、取引していたと思われる金融機関に対して問い合わせをすることで、預貯金の有無を確認します。(その際、戸籍謄本類、相続人の委任状、相続人の印鑑証明書は必須となります。)
例えば、被相続人の住所地付近の金融機関においては、被相続人が生前、預貯金を保有していた可能性が高いため、調査をした方が良いでしょう。被相続人の住所地が遠方の場合、金融機関によりますが、他の支店であっても、調査をしてくれることがありますから、積極的に問い合わせをするべきかと思います。
また、ゆうちょ銀行においては、被相続人が貯金等を保有していなかったかどうかについての照会を求めることが可能です。特に、年配の方ですと、ゆうちょ銀行と取引をしていたということが多く、調査する意味は大きいと思います。
遺産相続においては、被相続人の生前の預貯金とはいえ、相続人からの依頼を受けて開示を求めるということであれば、その内容が開示されるケースが多いでしょう。
これに対し、債権回収においては、債権者は、債権を保有するだけの全くの第三者でありますから、債務者の保有する預貯金の調査を行うということは簡単とは言えません。
ここで、一つ考えられる手段としては、弁護士会照会という制度です。判決書、和解調書などの債務名義が必要となりますが、一部の金融機関においては、弁護士会照会を用いて、預貯金の有無や残高を照会することが可能です。
もっとも、弁護士会照会の制度を利用するには、少なくとも1万円程度の実費が必要となります。費用対効果を考えて、制度を利用するかどうかを考える必要がありますが、仮に、判決が確定しているにもかかわらず、債務者が債務を履行しない場合には検討に値する手段だと思います。
不動産の調査
次に、不動産の調査についてご紹介いたします。
まず、遺産分割の事案についてですが、被相続人が自宅以外の不動産を保有しているということは少なからずあり得ることです。
固定資産税等の納付書の控えなどが被相続人の自宅などに残されていれば、その不動産の所有を確認することができますが、仮に、そのような控えがない場合には、「名寄帳」(固定資産課税台帳)を確認すると良いでしょう。
「名寄帳」とは、課税対象である不動産を所有者ごとに一覧表にしたものです。「名寄帳」は、当該不動産の管轄区域である都税事務所、市役所等で閲覧することが可能です。
ただし、被相続人が、複数の市区町村に不動産を所有していた場合には、それぞれの市区町村で名寄帳を閲覧・取得しなければ、その人の所有するすべての土地・家屋を把握することはできません。そのため、どの市区町村に被相続人名義の不動産があるのかという程度は分かっていなければなりません。
これに対し、債権回収における不動産の調査については、債権者という第三者での立場で「名寄帳」を取り寄せることは、一般的には難しいと言えます。そのため、債務者の住所地の地番を法務局に確認し、不動産登記簿を取得することで、その名義を確認する手段が一般的でしょう。
財産開示手続を利用しての調査

債権回収の事案において、債務名義を取得しているものの、債務者の預貯金、不動産の調査が功を奏さない場合には、財産開示手続を行うことは検討に値します。
財産開示手続とは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり、債務者が財産開示期日に裁判所に出頭して、債務者の財産状況を陳述するという手続です。
債務者が裁判所に出頭すれば、債権者は、根拠のない探索的な質問や債務者を困惑させる質問などは許されませんが、債務者に対して、財産に関する質問を行うことができます。例えば、債務者の保有する預貯金や債務者の就業先などに関する質問をすることになるでしょう。
仮に、債務者が正当な理由なく、呼び出しを受けた日に出頭しなかった場合や、陳述を拒否する、虚偽の陳述をするなどした場合には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることになります。
この点、従前は、30万円以下の過料の制裁のみであったこともあり、財産開示手続の実行性については、疑問視されていた面がありました。ところが、令和2年4月1日から、民事執行法が改正されたことにより、刑事罰が科されることになりましたので(改正民事執行法213条1項6号)、今後は、その実効性が期待できるといえるでしょう。
財産開示手続においては、債務者が出頭することで、手続の中で、債務者との間で、返済に関する和解が成立するということもあります。財産開示手続は、債務者の財産を調査するというだけでなく、債務者との間で、今一度、返済について協議を行うという意味もあります。罰則の強化がなされた改正民事執行法の下においては、十分に検討に値する手段といえるでしょう。
動産執行を利用しての調査
最後に、動産執行についてご紹介いたします。
債権回収の事案において、債務者から回収し得る財産がどうしても分からない場合、執行官とともに、債務者の自宅や店舗などに立ち入り、その中で発見した財産を売却して、債権額に充当するという手続が動産執行です。
債務者の自宅や店舗に立ち入るという手続の中で、預貯金、株式などの債務者の保有している財産が分かることがありますから、財産調査の意味でも行う実益はあるでしょう。そして、直接、債務者の自宅等に立ち入るわけですから、債務者に与える心理的プレッシャーとしても、非常に大きなものです。
もっとも、債務者の生活や仕事に欠かせない物まで差し押さえることはできません。また、タンス預金などが仮にあっても、66万円までは債務者が保有することが可能ですから、債務者の保有する財産の全てを動産執行の対象とすることはできません。そのため、動産執行を行っても債権回収ができるという保証はないわけですが、動産執行の予納金は、さほど高額とまでは言えないこと、先ほど述べた財産調査の意味や心理的プレッシャーを与えるというメリットを考慮すると、検討に値する手続と言えるでしょう。(なお、費用としては、予納金(約5万円)、開錠のための費用、弁護士費用などになります。)
まとめ
これまで、遺産分割と債権回収の事案を中心として、弁護士による財産調査についてご説明をしてきました。いずれの事案においても、財産調査は容易とは言えません。しかし、手続を駆使することで開示が可能となる財産も数多く存在します。 遺産分割や債権回収の事案において、財産が不明で悩みの方におかれましては、弁護士が介入することにより、事態が進展する可能性もありますから、お気軽にご相談いただければ幸いです。
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