預金債権 仮差押え

債権を回収する上で、しばしば利用する仮差押えという手続を解説したいと思います。

例えば、お金を貸したものの、借主がお金を払わない場合、貸主は借主に対して貸金を返してもらうよう、裁判所に民事訴訟を提起するとします。

もっとも、民事訴訟を提起して、勝訴判決を得たからといって、借主が必ず支払いをしてくれるというわけではありません。勝訴判決を得ても、借主が支払いに応じない場合には、借主の財産を差し押さえる必要があります。

しかし、借主が不動産を保有しておらず、預金しかめぼしい財産がない場合、訴訟手続中に、債権の執行を恐れて、借主が自分の預金口座から預金を全て引き出してしまうということがあります。そうなると、勝訴判決後の強制執行が難しくなってしまいます。

借主が預金を引き出さないよう、借主の預金口座、具体的には金融機関名と支店名を知っているのであれば、預金債権の仮差押えを行うことは一考に値するでしょう。

 

被保全債権の存在と保全の必要性

被保全債権の存在と保全の必要性 画像

仮差押えの申立においては、被保全債権の存在と、保全の必要性を疎明する必要があります。

被保全債権とは、先程の例によると、貸付債権を意味しますので、例えば、借用証などから疎明することになるでしょう。

保全の必要性とは、強制執行が難しくなる恐れがあり、仮差押えの手続が必要であるということを意味します。借主に返済を求めたものの、返してくれなかった場合、その請求書(内容証明)を疎明資料として提出したり、また、これまでの交渉経過などを詳細に主張することになるでしょう。

特に、預金債権の仮差押えにおいては、債務者の住所ないし本店所在地に、債務者名義の不動産がないということの疎明も必要になります。

つまり、債務者が、もし不動産を保有しているのであれば、まずは不動産を差し押さえれば良いということになります。保全の必要性の判断においては、預金債権以外に差し押さえるものが何もないということの疎明が必要なのです。

疎明の方法としては、債務者の住所ないし本店所在地のブルーマップと土地及び建物の登記簿謄本を提出することになります。

 

裁判官との面接

仮差押えの申立後、数日後に裁判官との面接が行われます。近年は、事前に電話でも、請求債権目録や仮差押債権目録の修正、必要書類の更なる追完などに関する協議が行われるようにもなりました。

速やかな仮差押えの決定のためには、裁判官からの指示に早期かつ的確に対応することが不可欠です。時間がない中で必要書類を用意することが難しい場合もありますが、申立の段階で、本訴を見据えた証拠収集を行うことが重要です。

 

法務局への担保金の供託

裁判官の面接時後、法務局に供託するための担保金額が決定します。一般的に、担保金額は債権額の2割程度が基準となることが多いでしょう。仮差押えの申立において、担保金を供託しなければならないということが、申立を躊躇する最大の要因と言って良いかもしれません。

この担保金の供託が必要な理由ですが、これは仮差押えを行うことで、信用不安など、債務者に損害が生じることもあり、その損害賠償金を担保するということにあります。

供託金が没収されるようなケースはあまりないのですが、最高裁平成31年3月7日付け判決によれば、保全の必要性がないのに、仮差押えの申立を行ったことが違法である旨判示されました。この判例でも損害との因果関係については否定していますので、供託金が没収されたようなケースではないのですが、被保全債権の存在や保全の必要性を入念に調査しなければ、担保金が没収されるリスクもあるということは肝に銘じておく必要があるでしょう。

 

仮差押え命令後の交渉

仮差押命令決定の後、債務者に対して仮差押命令決定書が送付されることになります。仮差押命令決定書が送付されたことによって、債務者は初めて自分の財産が使えなくなってしまったということに気づきます。

仮差押命令決定後、債権者は本訴提起をすることになりますが、本訴提起までの間に債務者から連絡があり、債務者との間で和解交渉が行われるということも珍しくありません。内容証明を送付しても全く反応がなかった債務者であっても、自分の財産が差し押さえられたということに危機感を感じて、連絡があるということはよくあります。

債務者との交渉を進めるという手段としても仮差押命令申し立ては有効な手段と言えるでしょう。

 

担保金の取り戻し

担保金の取り戻し 画像

最後に、担保金を取り戻すにあたっての手続をご説明します。

まず、債務者から同意を得るという方法です。債務者から同意が得られれば、比較的短期間で担保金を取り戻すことができます。

しかし、同意にあたっては債務者の印鑑証明書を用意する必要があります。訴訟提起により裁判上の和解が成立する場合には、和解条項に、担保取消しに同意をする旨の内容を記載することで印鑑証明書を用意する必要はありません。しかし、裁判上の和解以外であれば、債務者の印鑑証明書は必須となり、債務者によっては印鑑証明書を用意することに抵抗を示すこともしばしばありますので、実際に債務者から同意を得ての担保取り戻しを行う場合というのは少ないかもしれません。

次に、権利催告という手段です。権利催告とは、裁判所は、担保権利者である債務者に対して催告を行い、一定期間内に権利行使しなかった場合には、担保取消しに同意したものとみなすという制度です。

時間はかかるのですが、債務者から印鑑証明書を求めることもありませんので、担保金を取り戻すにあたっては、権利催告の手続を利用することが最も多いと言えるでしょう。

 

まとめ

これまで預金債権の仮差押えについてご説明をしてきました。あらゆる事案において、債権回収ができるかどうかという点は、大きな問題となります。昨今においては、民事執行法の改正により、財産開示手続における罰則の強化、第三者からの情報取得手続制定などにより、債権執行の実行性を確保するような動きがみられます。しかし、これらの手続がなされたからといって、確実に債権回収を図ることができるというわけではなく、実際に、財産を保有していない者からの債権回収は困難を極めます。

財産の散逸を防ぐという意味での仮差押えという手続は、債権回収の有効な手段であるということは間違いないと言えるでしょう。

くぬぎ経営法律事務所へのお問い合わせはこちらから

お電話でのご相談03-6458-3845業務時間 9:30~17:00メールでのご相談info@kunugi-law.com

くぬぎ経営法律事務所へのお問い合わせはこちらから

お電話でのご相談03-6458-3845業務時間 9:30~17:00メールでのご相談info@kunugi-law.com