不動産 仮差押え

不動産の仮差押えの意義

従前、預貯金の仮差押えの記事を投稿しましたが、今回は、不動産の仮差押えについて、不動産であることの特徴を中心に解説をしたいと思います。

そもそも、不動産の仮差押えとは何かということですが、債務者が保有する不動産(土地や建物)に仮差押登記がなされることで、債務者が不動産を処分するなどして強制執行を免れることを防ぐために行うものです。

例えば、貸金債権を保有している場合でも、借主がこれを任意に支払わない場合には、その支払いを求めて訴訟提起等を行うことになります。訴訟によって、仮に勝訴判決を受けることができたとしても、その債権の回収ができなければ意味がありません。むしろ、この債権回収こそが最も難しいものであります。

債権を回収するにあたっては、債務者の不動産、預貯金、給与債権などを差し押さえることが考えられます。(自動車を強制競売することで回収するという手段もありますが、一般的に自動車は換価価値がないことが多く、強制執行の対象としては上記3つが主でしょう。)

しかし、預貯金を差し押さえるには、債務者の保有する金融機関及び支店名を把握しておかなければなりません。弁護士会照会制度を利用することで、判明できる可能性もありますが、そのためには多大な費用と労力を要します。しかも、債務者が残高を0円としてしまえば結果的に差し押さえができないことになります。預貯金の仮差押えであっても、仮差押えをした金額が0円であった場合には、債権を回収することはできません。

また、給与債権を差し押さえるにも、当然のことながら、債務者の勤務先を知らなければなりません。しかし、債権者が債務者の勤務先を必ずしも知っているとは限らず、仮に知っていたとしても、債務者が転職してしまえば、結果的には回収することができなくなってしまいます。

債務者が不動産を保有している場合には、強制執行するための費用(80万円程度)は必要となるものの、その不動産を強制競売することで債権の回収を図ることが可能であり、回収手段としては、最も債権回収の可能性が高いといえるでしょう。不動産の仮差押えはその強制競売が確実にできるよう、その保全をするための手続です。また、強制競売まではせずとも、不動産への仮差押登記がなされれば、債務者への心理的なプレッシャーにもなります。仮差押え後の裁判(本訴訟)での和解交渉を有利に進めるためにも不動産の仮差押えは有効な手段になり得るといえるでしょう。

 

担保金の額

担保金の額 画像

これまで不動産の仮差押えの意義やメリットについて述べてきましたが、当然、デメリットもあり、その一つとして、担保金額が高額になりやすいということがあります。

そもそも、仮差押えにあたっては、法務局に担保金を供託しなければなりません。担保金は、裁判所の担保決定により決せられるのですが、不動産の仮差押えにおいては、預貯金の仮差押えよりも、担保金の金額が高額になることが一般的です。

つまり、預貯金の仮差押えの場合には、請求債権額の2割程度の金額が担保金額となります。しかし、不動産の仮差押えの場合には、仮差押えの対象となる不動産の価値も担保金額の考慮要素となります。不動産の価値をどの程度考慮するのかについては、請求債権の内容や立証の程度についても考慮するので、ケースバイケースではありますが、不動産の固定資産評価額の1.5割から2割程度を基準として、担保金額が算出されることが多いでしょう。(ちなみに、不動産の評価に関する上申書を提出する必要があります。)

このように、不動産の仮差押えにおいては、かなりの額の担保金が必要となるわけですが、請求債権額との兼ね合いから、例えば、債務者が自宅の建物とその敷地を所有している場合には、その敷地だけを仮差押えの対象とすることがあります。つまり、仮に、敷地のみが強制競売により第三者の所有となった場合、建物所有者のために法定地上権が成立することになります。そのため、敷地は法定地上権の負担付きの土地ということになりますので、敷地のみの仮差押えをする場合には、担保金額の算定にあたっては、その法定地上権の価値分を控除した金額が基準となります。具体的には、法定地上権の価値は土地の6割から7割程度なので、敷地の固定資産評価額が仮に4000万円であったとしたら、その敷地の価値は3割から4割程度(1200万円から1600万円)となり、担保金額はその価値の1.5から2割程度(180万円から320万円程度)が目安となることが多いでしょう。債務者が自宅の建物とその敷地を保有している場合には、敷地のみを仮差押えの対象とすることは検討に値すると思います。

 

不動産の仮差押えに必要な費用や書類

不動産の仮差押えは、仮差押えの登記がなされるという特徴があります。そのため、仮差押の登記がなされるので、登録免許税を負担する必要があり、概ね請求債権額の1000分の4程度を収入印紙等で納める必要があります。

 また、債務者との間で本訴訟中に和解が成立するなどして、仮差押えの申立てを取り下げる場合、仮差押えの抹消登記を行うための登録免許税分の納付が必要となります。具体的には、物件1個(区分所有建物につき敷地権は1個と数えます)につき1000円、物件が法務局1か所につき20筆以上の場合については定額2万円の登録免許税の収入印紙が必要となります。

 さらに、登記権利者義務者目録についても忘れずに提出する必要があります。一般的に、申立段階、つまり仮差押の登記をしてもらうときには、登記権利者は債権者、登記義務者は債務者となりますが、仮差押えの抹消登記をしてもらうときには登記権利者は債務者、登記義務者は債権者となります。預貯金の仮差押えにはない書類なので、忘れないようにしましょう。

 

まとめ

不動産 仮差押え まとめ 画像2

 仮差押えとは、債権回収として極めて重要な手段といえます。特に、不動産の仮差押えとは、債権の回収可能性が高く、また、債務者が自宅として使用していることが多いため、本訴訟で勝訴判決を受けた後の回収手段としての意味だけでなく、債務者への心理的な圧力となり、その結果として、本訴訟中での交渉を有利に進めることが可能となるという点でも、重要な意味を持つでしょう。

 ちなみに、不動産の仮差押えにおいても、それが認められるには、このままでは債権回収を図れない恐れがあるという保全の必要性が満たされなければなりません。しかし、債権の存在を認める証拠があるにもかかわらず、債務者が支払いをしないという時点でこの恐れは十分にあるといえます。債権の立証がある程度疎明できるような案件であれば、保全の必要性も認められる可能性は高く、もし、債務者が不動産を保有している場合には、債権者の方において、必ず検討した方が良い手段であることは間違いないでしょう。

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