消費税率の引き上げ 消費税転嫁対策特別措置法

消費税率の引き上げ 消費税転嫁対策特別措置法とは

令和元年10月、いよいよ、消費税は8%から10%に引き上げられることになります。この消費税率の引き上げに向けて、事業主の方におかれましては、様々な対策を講じなければなりません。

 

本ブログでは、事業主の方が消費税率の引き上げにあたり、押さえておきたいポイントをご説明していきたいと思います。今回は、消費税転嫁対策特別措置法についてご説明します。

 

消費税転嫁対策特別措置法とは?

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消費税転嫁対策特別措置法(以下「特措法」と言います。)とは、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保し、中小企業・小規模事業者の方々の利益を守ることを目的としています。(なお、特措法の期限は、2021年3月31日です。)

 

そもそも、消費税とは、事業主の方が負担するものではなく、最終的には消費者の方が負担する税金です。そのため、当然ではありますが、増額分の消費税も、消費者の方が負担しなければなりません。増税分の消費税を、消費者の方に負担させることを「消費税の転嫁」と言います。

 

消費税の転嫁が問題なく行われていれば、事業主の方は消費税の増税がなされても、特に不利益を被ることはありません。しかし、消費税の転嫁が何らかの理由で阻害されてしまえば、事業主の方が消費税分を負担しなければならないことになります。

特措法は、消費税の転嫁が阻害されないよう、事業者の方の利益を守るために規定されている法律なのです。

 

4つの特別措置

特措法とは、主に以下の内容から成り立っています。それぞれの内容について、詳述いたします。

 

  • 消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置
  • 消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置
  • 価格の表示に関する特別措置
  • 消費税の転嫁カルテル及び表示カルテルに関する特別措置

 

消費税の転嫁拒否等の行為

消費税の転嫁拒否等の行為とは、例えば、買い手側が、「これまで長年、この金額で買っているのだから消費税の増額後も同じ金額にして下さい」と述べるなどして、消費税増額分を支払わない行為のことです。

 

特措法は、このような転嫁拒否等の行為を禁止しており、事業主の方においては、このような行為を行わないよう、十分に注意をしなければなりません。

 

転嫁拒否等の行為を行った場合、公正取引委員会による勧告や公表がなされる可能性があります。対外的な信用を失わないためにも、事業主の方は転嫁拒否等の行為をしないよう、十分に注意しなければなりません。

 

なお、転嫁拒否等の行為には、主に以下のような類型に分けられます。

 

  • 買いたたき
  • 減額 
  • 商品購入、役務利用、利益提供の要請
  • 本体価格(税抜価格)での交渉拒否
  • 報復行為

 

消費税の転嫁を阻害する表示

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特措法は、消費税の転嫁を阻害する表示を行うことを禁止しています。

 

消費税の転嫁を阻害する表示とは、消費者に消費税を負担させないという表示のことです。

 

例えば、「消費税の増額分を値引きします」「消費税の増額分のポイントを付与します」という表示です。

このような「消費税増税分を負担しなくて良い」という表示は、消費者側にとっては嬉しい表示です。しかし、消費税とは、本来は消費者が負担しなければならないものであり、消費者に消費税を転嫁することができなければ、事業者は多大な損失を被ることになってしまいます。特措法は、消費税の転嫁を阻害する表示を禁止しているのです。

 

もっとも、企業努力による値引きすること自体は禁止されていません。例えば、「お客様への感謝セールを実施します」ということで、消費税の増額分相当額を値引きすることは問題ありません。つまり、消費者に対して消費税分ないし消費税増税分を負担しなくても良いという誤解を与えるような表示でなければ大丈夫なのです。

 

仮に、消費税の転嫁を阻害する表示をすると、消費者庁長官により、勧告や公表等がなされる可能性がありますから、事業主の方は十分に注意をしなければなりません。

 

価格の表示(外税表示、税抜価格の強調表示)

値札の価格表示について、消費者に商品の販売やサービスの提供を行う課税事業者には、「総額表示義務」が課せられています。

 

総額表示とは、要するに、税込価格を表示しなければならないことです。税抜きの価格が1000円であれば、消費税10%を上乗せした「1100円(税込)」と表示することになります。

 

総額表示は、支払総額が明確になり、消費者保護のためには、最も適切な表示です。

しかし、総額表示は、値上がりした印象が強く、消費者の購買意欲が低下する恐れがあります。また、消費税率の変更に伴い、価格表示の変更作業が大変になることもデメリットとして挙げられます。

 

そこで、特措法においては、「外税表示」と「税抜価格の強調表示」が認められています。

 

「外税表示」とは、税抜きの価格を表示する方法であり、例えば、「1000円(税抜き)」という表示のことです。税抜き価格で表示することで、本体価格には変更がないということをアピールできるというメリットがあります。ただし、総額表示がいくらなのか、消費者にとって分かりにくいという点はデメリットといえるでしょう。

 

「税抜き価格の強調表示」とは、税抜き価格と税込価格を併記し、税抜き価格を強調して表示する方法のことです。この方法ですと、本体価格には変更がないことをアピールできることと同時に、総額表示も明確にすることが可能となります。ただし、税込価格も表示しなければならず、消費税率の引き上げ時における価格表示の変更作業が大変になるというデメリットもあります。特に、軽減税率対象商品も扱っている場合には、その作業はより大変になると言えるでしょう。

 

いずれの表示を用いるのかについては、個別具体的に判断することになります。もっとも、特措法の期限は、2021年3月31日ですから、同日までには、総額表示としなければならないことに注意する必要があります。

 

転嫁カルテルと表示カルテル

特措法においては、消費税率の引上げに際して、消費税の転嫁方法や表示方法の決定のカルテルが特別に認められています。

 

まず、転嫁カルテルとは、消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為を意味します。

 

この決定とは、例えば、消費税率を乗ずることで、計算上生じる端数について、切上げ、切捨て、四捨五入等により合理的な範囲で処理する旨の決定などのことです。

 

ただし、「本体価格を統一することの決定」や「消費税率引上げ分と異なる額を転嫁する決定」などは、独占禁止法に違反するものであり、認められません。

 

また、参加事業者の3分の2以上が中小事業者であることが必要です。

 

次に、表示カルテルとは、消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為を意味します。

この決定とは、例えば、「消費税込価格」と「消費税額」を並べて表示するなど、税率引き上げ後の価格について統一的な表示方法を用いることに対する決定を意味します。なお、表示カルテルは、全ての事業者・事業者団体に認められています。

もっとも、これらのカルテルを行うには、事前に公正取引委員会への届出を必要としますので、注意しなければなりません。

 

まとめ

これまで特措法における主な特徴を述べてきましたが、重要なことは、消費税率の引き上げにあたり特措法という法律があることを、事業主の方だけでなく、従業員の方も理解しなければならないということです。

 

例えば、従業員の方としては、会社のためになると思い、消費税の転嫁を阻害するような表示行為をしてしまうことも十分にあり得ることです。

 

特措法を遵守するには、従業員へ教育が不可欠であり、そのために外部のセミナー等を利用することは一考に値するでしょう。消費税率の引き上げに関して、もし、お悩み方がいらっしゃいましたら、くぬぎ経営法律事務所にお気軽にご相談いただければ幸いです。

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