消費税の転嫁拒否等の行為(前編)

消費税の転嫁拒否等の行為(前編)とは

消費税率の引き上げの時期が間近に迫ってきました。消費税転嫁対策特別措置法につきましては、以前ご紹介いたしましたが、今回はその中でも「消費税の転嫁拒否等の行為」をテーマとしたいと思います。

 

消費税率の引き上げがなされると、小売店が納入業者に対して、消費税の引き上げ分の支払いを拒否すること、また、増税分を支払うことを認める代わりに、何らかの利益を求めるなどの行為などがなされることがあります。このような行為を「消費税の転嫁拒否等の行為」と呼びます。

 

消費税転嫁対策特別措置法は、「消費税の転嫁拒否等の行為」を固く禁止しており、公正取引委員会による監視がなされています。悪質な事案に対しては、公正取引委員会による勧告や公表がなされてしまいます。社名が公表されるとなれば、対外的な信頼を失うことにもなりかねないので、注意しなければなりません。

 

本ブログでは、前編と後編に分けて、どのようなケースが「消費税の転嫁拒否等の行為」に該当するのかについて詳しくご説明致します。

 

特定事業者と特定供給事業者

特定事業者と特定供給事業者 画像

消費税転嫁対策特別措置法は、特定事業者(買い手)が、特定供給事業者(売り手)から受ける商品または役務の提供に関し、「消費税の転嫁拒否等の行為」を禁止しています。

 

そのため、「消費税の転嫁拒否等の行為」として、消費税転嫁対策特別措置法に違反するかどうかは、まず「特定供給事業者」及び「特定事業者」に該当するか否かを確認する必要があります。

 

まず、特定供給事業者とは、納入業者などの「売り手」のことです。

 

正確には、A 大規模小売事業者(買い手)に継続して商品またはサービスを供給する事業者、または、B 大規模小売事業者以外の特定事業者(買い手)に継続して商品またはサービスを供給する、個人である事業者、人格のない社団等である事業者、資本金の額が3億円以下の事業者のことです。

 

なお、大規模小売事業者とは、一般消費者が日常的に使用する商品の小売業者であって前事業年度における売上高が100億円以上である事業者や、一定の面積の店舗を有する事業者のことです。

 

この特定供給事業者には免税事業者も含まれます。そのため、特定事業者としては、特定供給事業者(納入業者)が免税事業者で、消費税を支払っていないことを理由に、消費税を支払わないということはできません。

 

これに対し、特定事業者とは、小売業者などの「買い手」のことです。

 

正確には、上記Aの特定供給事業者から、商品やサービスなどの供給を受けている大規模小売事業者、または、上記Bの特定供給事業者から商品やサービスなどの供給を受けている大規模小売事業者以外の事業者のことです。

 

なお、地方公共団体や独立行政法人も、特定供給事業者から継続して商品または役務の供給を受ける場合には、特定事業者に該当します。そのため、地方公共団体や独立行政法人により買いたたきなどの「消費税の転嫁拒否等の行為」が行われていた場合であっても、消費税転嫁対策特別措置法に違反している可能性があるのです。

 

買いたたき

買いたたき 画像

消費税の転嫁拒否等の行為のうち、代表例が「買いたたき」です。

 

例えば、特定事業者(買い手)と特定供給事業者(売り手)との間で、消費税率引き上げ前に、価格の取り決めを行い、継続して取引を行ってきたところ、消費税引上げ後も、税込価格を据え置いたという場合です。

 

このような場合には、たとえ、特定供給事業者から消費税率の引き上げ分の上乗せの要請がなくても、特定事業者としては、合理的な理由のない限り、増税分を上乗せした金額を支払わなければ「買いたたき」行為に該当し、消費税転嫁対策特別措置法に違反することになります。

 

特定供給事業者から値上げの要請がない場合、特定事業者としては、これまでと同じ価格を支払い続けてしまいがちです。十分に注意しなければなりません。

 

また、消費税率引上げに伴い安売りセールを実施するために仕入価格を据え置くことや、特定事業者が販売する食品の消費税率が8%であることを理由に、軽減税率の適用対象外である食品の包装材料の仕入価格を据え置くことも、「買いたたき」に該当し、消費税転嫁対策特別措置法に違反します。

 

特定事業者側の事情により、特定供給事業者に対して不利益な扱いをすることは許されないのです。

 

それでは、契約書に「〇〇〇〇円(消費税込み)」と記載されている場合はどうでしょうか。このような契約書の記載は、賃貸借契約書に多いと思います。確かに、契約書の文言からすれば、消費税込みの金額を定めていることから、消費税率の引き上げの後も、同一の金額を支払えば良いようにも思われます。しかし、「消費税込み」という記載は、あくまで契約当時の消費税を前提としていますから、消費税率引き上げの後は、合理的な理由がない限り、増税分を含めた金額を支払う必要があります。

 

また、納入業者との間で締結した、仕入価格につき消費税率を8%に据え置く旨の合意書がある場合はどうでしょうか。

 

このような合意書があれば、納入業者が消費税率を8%に据え置くことを容認している以上、許されるようにも思えます。しかし、納入業者側としては、今後の取引に与える影響等を懸念して納入価格の引下げ要請を受け入れざるを得なかったということが考えれます。そのため、このような合意書が存在しても、合理的な理由が存在しない限り、消費税率を8%に据え置くことは許されません。

 

「合理的な理由」の有無については、ケースバイケースですが、例えば、スケールメリットが生じ得る場合、以下のような要素を考慮して判断されることになります。一般的に、「合理的な理由」については、かなり厳格に考えられていると言って良いでしょう。

 

  • 特定供給事業者(売り手)にも客観的にコストの削減効果が生じていること
  • コスト削減効果を超えて値下げをしていないこと
  • 十分な協議の上で、売り手である特定供給事業者が納得して合意していること

 

これまで「消費税の転嫁拒否等の行為」のうち、「買いたたき」の例をご紹介してきました。次回は「買いたたき」以外の例や、違反行為への対処などをご紹介したいと思います。

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