消費税の転嫁拒否等の行為(後編)とは
前回は、消費税の転嫁拒否等の行為のうち、買いたたき行為を中心にお話をしてきました。
今回は、「買いたたき」以外の例や、違反行為への対処などをご紹介したいと思います。
減額
まず、「減額」についてご説明をいたします。減額とは、特定事業者(買い手)が、合理的な理由なく、消費税引き上げ分の全部または一部を、「事後的に」減額して支払うことを意味します。(「事後的に」という点が、「買いたたき」と違うところです。)
この「合理的な理由」とは何かというところですが、例えば、商品に瑕疵がある場合や、納期に遅れた場合など、特定供給事業者に責めに帰すべき事由があるとき、相当の範囲内で代金を減額するということは、「合理的な理由」による減額として、違反行為には該当しません。
しかし、このような合理的な理由なく、消費税引き上げ分の全部または一部を減額することは、たとえ少額であっても、認められません。
「商品購入、役務利用の要請」と「利益提供の要請」
次に、「商品購入、役務利用の要請」と「利益提供の要請」についてご説明いたします。
「商品購入、役務利用の要請」とは、例えば、消費税率引き上げ分の全部または一部を上乗せすることを受け入れる代わりに、特定供給事業者にチケットの購入や、自社の宿泊施設の利用等を要請する行為などのことを意味します。
「利益提供の要請」とは、例えば、消費税率引き上げ分の全部または一部を上乗せすることを受け入れる代わりに、消費税の転嫁の程度に応じて、協賛金の支払いを要請する行為などのことを意味します。
また、特定事業者が手伝いの店員を派遣するように特定供給事業者(納入業者)に要請することも、原則として、「利益提供の要請」に該当します。
もっとも、例外的に、納入業者が自社商品の販売のために従業員を派遣する場合で、従業員の派遣により、納入業者が得ることとなる直接の利益の範囲内のものであり、納入業者の自由な意思による場合には、「利益提供の要請」には該当しません。
本体価格での交渉拒否
「本体価格での交渉拒否」についてご説明いたします。
「本体価格での交渉拒否」とは、商品または役務の供給の対価における交渉において消費税が含まれない価格を用いての特定供給事業者からの申出を拒むことを意味します。
例えば、特定事業者が、本体価格に消費税額を加えた総額しか記載できない見積書等の様式を定め、その様式での使用しか認めない行為などが、この「本体価格での交渉拒否」に該当します。
つまり、消費税を加えた総額しか記載できないとすれば、本体価格の金額が曖昧になり、特定供給事業者が特定事業者に対して、本体価格の交渉を行うことが難しくなってしまいます。本体価格での交渉ができなければ、特定供給事業者にとって不利益が生じる可能性がありますから、そのようなことのないよう、先に述べたような行為を禁止しているのです。
合意書が存在する場合
これまで転嫁拒否等の行為についてご説明をしてきましたが、仮に、特定供給事業者が作成した合意書がある場合はどうでしょうか。
結論としては、転嫁拒否等の行為は、たとえ、特定供給事業者の合意書があっても、原則として認められません。
なぜなら、特定供給事業者の立場としては、特定事業者と比べて、今後の取引に与える影響等を懸念して、納入価格の引き下げ要請を受け入れざるを得ないという不利な立場にあります。このような立場から、特定供給事業者が合意書を締結してしまうことがしばしばありますから、特措法は、このような特定供給事業者を守るため、転嫁拒否等の行為を禁止しているのです。
その結果、たとえ、合意書が存在していても、納入価格の引下げに合理的理由があるなどの事情がない限り、転嫁拒否等の行為は許されないことになります。
違反行為への対処法
仮に、転嫁拒否等の行為をすれば、公正取引委員会などの調査(報告徴収、立入検査等)、指導を受ける可能性があります。
重大な違反行為であれば、公正取引委員会による勧告や事業者名などが公表される可能性もありますから、特定事業者の方は十分に注意する必要があります。
これに対し、特定供給事業者の方において、転嫁拒否等の行為を受けている場合、公正取引委員会に通報、報告するなどして対処することになるでしょう。
ここで、特定供給事業者の方の中には、特定事業者からの報復を恐れ、通報、報告することができないという方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、特措法は、公正取引委員会に通報、報告されたことを理由に取引の数量を減らしたり、取引を停止したりするなど、不利益な取扱いをする報復行為を禁止しています。
まとめ
これまで、前編と後編に分けて、転嫁拒否等の行為についてご説明してきました。消費税の増税から既に1か月が経過しました。今後、転嫁拒否等の行為について問題となる事例が生じてくる可能性があります。もし、転嫁拒否等の行為についてお悩みの方がいらっしゃいましたら、お気軽にくぬぎ経営法律事務所にご相談いただければ幸いです。
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