企業の取引とは複雑多岐にわたります。様々な取引相手と、数多くの契約を交わすことになります。もっとも、このような複雑かつ多数の取引を行う中で、取引の相手方が債務を支払わず、売掛金等が未回収になってしまうということがあります。
売掛金等が未回収となれば、企業の経営に影響することは言うまでもなく、最悪の場合には、連鎖倒産を引き起こすこともあります。しかし、相手方が債務を支払わないということは、それだけ相手方に資力が乏しいという可能性が高く、それゆえに債権を回収することが難しいケースが多いです。
相手方が債務を支払わない場合、債権をどのように回収していくのか、以下、その具体的な方法についてご説明致します。
債権回収の具体的な方法
債権回収を確実に行う上で考えられる手段としては、不動産に担保権を設定することが考えられます。例えば、土地に抵当権を設定しておけば、債務不履行が生じた場合、上記土地を強制競売にかけることで、債権回収を図ることが可能となります。
また、抵当権のような物的担保ではなく、保証人という人的担保を、取引の相手方に立ててもらうということも考えられます。債務者に資力がなくとも、保証人に資力があるなら、保証人から債権の回収を図るということが可能となります。
しかし、このような物的・人的担保を、取引の相手方に常に用意してもらうことは、現実的には難しいと言わざるを得ません。そのため、実際には、債務の不履行が生じた時点で対策をしなければならない場面が多いと思われます。
債権回収においては、大きく分けて、①裁判外での交渉を行う、②民事調停制度を利用する、③仮差押えや訴訟提起などを行うことで強制的に債権を回収する、という3つの手段があります。
まず、①裁判外の交渉を行うという方法ですが、これは、内容証明郵便等を利用して、相手方に債務の履行を催促し、裁判手続を使わずに相手方と交渉することによって解決する方法です。裁判手続を経ることになると、どうしても時間と労力を要します。そのため、迅速な解決に向けて、まずは上記①の方法を採ることが多いでしょう。
もっとも、請求債権の存否に争いがあり、複雑な法的問題が絡む場合には、上記①の方法だけで解決することは難しいといえます。
複雑な法的問題が絡む場合には、②民事調停の申立を行うことが考えられます。民事調停とは、裁判所において、和解の成立を目指して、相手方と話し合う機会を設けるという手続です。裁判官、調停委員(2名)を交えての話し合いがなされることもあり、法的な観点に沿って、冷静な話し合いを行うことが期待できるでしょう。
しかし、民事調停とは、相手方との協議を通じての解決手段であるため、そもそも相手方が話し合いに応じない場合には、有効な手段ではありません。
相手方との話し合いによる解決が難しい場合には、③仮差押えや訴訟提起などを行うことで強制的に債権を回収するしかないでしょう。
ここで、「仮差押え」という手続について説明致します。仮差押えとは、債務者が財産(不動産、預貯金、債権等)を勝手に処分、取得、費消等することを防止し、金銭債権の執行を保全する手続です。
訴訟を提起し、その後、勝訴判決を得ても、それだけで債権回収が可能となるわけではありません。債務名義(判決書)をもって、相手方の財産に対して強制執行手続を行う必要があります。
しかし、相手方としては、強制執行がなされる前に、不動産を売却する、預金を引き出すなどして、自己の財産を隠匿等してしまう可能性があります。財産が隠匿等されてしまえば、強制執行手続を行うことは極めて難しくなりますが、仮差押えの手続を行えば、財産の隠匿等を防ぐことができますので、債権回収の方法としては、一考に値するでしょう。
ただし、仮差押えの申立を行うにあたっては、2点ほど、注意しなければなりません。
まずは、あらかじめ相手方の財産を把握しておく必要があります。例えば、不動産であれば、どの場所にある不動産なのか、その住所は最低限知らなければなりません。また、預貯金であれば、原則として、銀行名及び支店名を知らなければなりません。さらに、相手方の第三者に対する債権(売掛金等)であれば、その第三者の住所、氏名(法人名)に加え、どのような債権なのか、その内容を知らなければなりません。
そのため、相手方との取引を行うにあたっては、このような情報につき、あらかじめ、可能な範囲で入手するようにしておいた方が良いでしょう。
また、仮差押えを行うにあたっては「担保金」を用意しなければなりません。仮差押えの手続は、債権の存否が確実ではない状態で相手方の財産に制約を加えるものであり、相手方としては上記制約による損害を受ける可能性があります。「担保金」とは、後の裁判(訴訟)の結果、被担保債権の存在が認められなかった場合などにおいて、相手方の被った損害を補填するためのものであり、仮差押えを行うにあたっては、必ず用意しなければならないものです。
「担保金」の金額は事案によりますが、被保全債権額(請求額)の2割程度となることが多いです。後の裁判により、被担保債権の存在が認められれば、後に取り戻すことが可能なものですが、担保金額が高額なこともあり、仮差押えの申立の際には注意が必要です。
その他、裁判手続としては、通常の訴訟のほか、「少額訴訟」や「支払督促」という、一般的な訴訟手続と比較して簡単な手続もあります。当くぬぎ経営法律事務所では、ご相談、事案内容に応じて、どのような裁判手続が適切なのかにつき、個別に判断させていただいております。
債権回収の問題は、企業の存続にかかわる重大な問題です。しかし、その回収は容易でないことが多く、訴訟等の複雑な裁判手続を経なければならないこともあります。もっとも、早期に対応することで、相手方に財産が残っているうちに回収ができたというケースもございますので、債権回収に不安のある企業様は、お気軽に当くぬぎ経営法律事務所にご相談いただければ幸いです。
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