刑法では、殺人罪、傷害罪、暴行罪、窃盗罪、詐欺罪など、様々な犯罪に対する刑罰が定められています。刑事事件とは、このような犯罪に及んだと疑われている人が、本当に犯罪行為をしたのか、仮に、犯罪に及んだとして、どのような刑罰が与えられるべきかを審理する手続です。
例えば、スーパーで万引きをした場合、このような行為は窃盗罪に該当します。刑法235条によれば、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と定められていますので、万引きをした場合、この量刑の範囲で、刑罰が下されるということになります。
これに対し、民事事件は、金銭などの請求が認められるかどうかという、当事者同士の問題です。具体例としては、貸金の返還請求、交通事故による損害賠償請求、賃貸借契約解除による建物の明渡し請求などが挙げられます。
以下、民事事件と比較しながら、刑事事件の特色について、詳しく述べていきたいと思います。
和解による解決の可否

民事事件は当事者同士の問題です。そのため、仮に、裁判になっても、裁判上の和解により解決するケースが圧倒的に多いと言えるでしょう。
「和解」とは、お互いに譲り合い、妥協点を探ることで解決する方法です。裁判(判決)においては、どのような事案であっても、敗訴のリスクはあります。また、金銭請求では、相手方の資力、つまり、仮に勝訴しても、相手方から金銭を回収することが可能かどうかという回収可能性も考慮しなければなりません。お互いに最低ラインを確保するという意味でも、民事事件においては、和解による解決が望ましいと言えます。
これに対し、刑事事件は、犯罪行為を行った者に対して、国が刑罰を科すための手続きです。
捜査機関が主体的に証拠の収集を行い、起訴(裁判手続)をするかどうかについては、専ら検察官により決せられます。
そのため、当事者同士で話し合いによる解決、つまり示談が成立した場合であっても、刑罰が免除されるというものではなく、相応の刑罰が科される可能性は十分にあります。
このように、民事事件では、和解による終局的な解決が可能ですが、刑事事件では、たとえ示談が成立したとしても、それで解決するというわけではないという点が大きな特徴と言えるでしょう。
刑事事件における示談の意義
刑事事件において、被害者との間で示談が成立しても、刑罰が免除されるというわけではありません。しかし、示談が成立したということは、量刑の判断において、重要な情状事実として考慮されることになります。
つまり、被害者との示談が成立したということは、被害者が被疑者ないし被告人を許したということになります。被害者が許したということは、被疑者ないし被告人を殊更重く処罰する必要がないということにつながりますから、示談の成立は、量刑の判断において重要な考慮要素となります。
その結果、起訴前に示談が成立すれば、不起訴となる可能性は高くなり、起訴後、示談が成立していれば、執行猶予判決が下される可能性が高くなります。
もちろん、前科等がある場合、示談が成立しても実刑判決が下される可能性はあります。しかし、被害者との示談交渉は、被害者救済の観点からも必要なことでありますから、可能な限り試みる必要があるでしょう。
ただし、示談交渉は被害者の気持ちを尊重して行う必要があります。被害者が示談することを拒絶するような場合、執拗に示談交渉をしてはなりません。
刑事事件における被害弁償の意義

仮に、被害者が示談交渉に応じない場合には、被害弁償金を受け取ってくれないかどうかを確認することになります。
刑事事件においては、被害感情が高く、被害者が加害者を許さない場合の方が圧倒的に多いと言えるでしょう。その場合には示談を成立させることはできませんが、被害者の方によっては、被害弁償金を受け取るということまでは認めてくれることもあります。
ここで、民事事件においては、相手方からの請求額を全額支払えば、それで解決ということになりますが、刑事事件においては、被害額を全額支払っても、刑罰が免除されるというものではありません。しかし、被害額を弁償したという事実も、量刑の判断においては、情状事実として、相当程度の考慮がなされることが一般的です。
もちろん、被害弁償も被害者への気持ちを尊重して行う必要がありますので、その点は注意しなければなりません。
身柄拘束の有無の違い
最後に、身柄拘束の有無の違いについてご説明いたします。
刑事事件においては、被疑者ないし被告人が逮捕・勾留された場合、身柄を拘束されてしまいます。この点も、民事事件とは大きな違いとなります。
起訴後の段階であれば、保釈の申請を試みることになります。もっとも、保釈が認められるには、少なくとも、身元引受人がいること、保釈金を用意できることが必要となります。保釈金の金額は事案により様々ですが、一般的に、前科前歴がない場合であり、執行猶予判決が見込まれる場合には、200万円程度が基準となることが多いでしょう。
これに対し、起訴前の段階であれば、保釈という制度はありません。そこで、逮捕後、勾留決定前であれば、身元引受人がいること、社会的な地位がしっかりしていることなどを主張、立証し、勾留決定がなされないように、弁護活動をすることになるでしょう。
刑事事件における身柄拘束は、民事事件にはない大きな問題です。もちろん、捜査機関に対して協力することは不可欠ですが、身柄拘束が明らかに必要のない事案においては、その理由を主張、立証すること、起訴後においては保釈の申請を試みることが重要でしょう。
まとめ
これまで、民事事件と比較しながら、刑事事件の特色をご説明してきました。
刑事事件では、捜査機関への協力は不可欠ですが、その中でも、被害者への示談、被害弁償、保釈の申請など、弁護士による役割は大きなものと言えます。本記事が、刑事事件のイメージの構築にお役に立てれば幸いでございます。
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