自己破産とは、借金の免除(免責)を図ることができるので、最も抜本的な解決を図ることができる手続です。
しかし、借金の免除(免責)を受けるまでの間に複雑な手続を要する上に、自己の保有するあらゆる財産を失う可能性がありますので、自己破産を選択することでのデメリットは小さいとは言えません。そのため、手続を選択は慎重に行う必要があります。
自己破産問題とは?
自己破産を選択することにより、借金を全て免除(免責)することを図ることができ、借金問題を抜本的に解決することが可能です。
もっとも、自己破産においては、大きく分けて、同時廃止という手続と少額管財という手続の2種類があります。
同時廃止とは、破産申立と「同時に」、破産手続を終了するという手続です。破産手続の終了後は、免責審尋期日に出頭し、特段債権者からの異議等がなければ、免責となります。裁判所に対して支払う実費も少額で済みますので、簡易な手続といえます。
これに対し、少額管財とは破産申立をした後、破産管財人(裁判所が選任する弁護士)により、財産の有無や免責不許可事由の有無について調査を経た上で行う手続です。破産管財人による調査を経なければなりませんので、裁判所に対して支払う実費は高くなり、また、手続も複雑になります。
同時廃止と少額管財、どちらの手続になるのかは、個々の事案により個別に判断されます。
例えば、相当額の生命保険や退職金などの財産がある場合には、少額管財事件になる可能性が高くなります。
また、生活費・教育資金の捻出のための借り入れのほか、ギャンブルや旅行などによる浪費があった場合、免責不許可事由の調査のために、少額管財事件になる可能性が高くなります。
近年では、詐欺的な投資を持ちかけられて、勧められるがまま、消費者金融等を利用してしまい、予定どおりの配当が得られず、自己破産しなければならないという事案も生じています。
自己破産に関して問題となるケース
自己破産をすると、全ての財産を失うのか。
- 具体例
自己破産をすると、大半の財産が破産財団という債権者への配当になってしまいます。しかし、全く財産を保有できないとなれば、今後の生活ができなくなってしまいますので、どの程度の財産であれば保有できるのか、予め把握しておく必要があります。
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対処方法
自己破産の申立をしても、自由財産の範囲内であれば、財産を保有することが可能です。
自由財産の範囲とは、具体的には、現金であれば99万円まで、現金以外(生命保険など)は、その価値が20万円以下であれば、自由財産(自由に保有できる財産)ということで、自己破産の申立をしても、財産を保有することが可能です。(ただし、相当額の財産を保有している場合、破産の手続は、同時廃止ではなく、少額管財として処理されます。)
自由財産の範囲は、現金の方が広く認められるため、仮に、現金に換価可能な財産を保有している場合には、換価した方が良い場合があります。
このように、自己破産といっても、全ての財産を失うというわけではありません。今後の生活に支障が生じないように、自由財産という範囲を活用すると良いでしょう。
自由財産の範囲を超える財産は絶対に保有することはできないのか。
- 具体例
自己破産をしても、自由財産の範囲内であれば、財産を保有することができます。しかし、生命保険や自社株式などにおいて、その価値が20万円を超えていても、どうしても換価することは避けたい場合があります。このような場合に、換価を避けるにはどうすれば良いのか、問題となります。
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対処方法
生命保険や自社株式などが20万円を超える価値がある場合、原則として、自由財産の範囲外となります。
もっとも、自由財産の範囲が広く認められている現金を用いることで、換価することを避けることは可能です。つまり、現金であれば99万円まで保有することができますので、生命保険や自社株式の価値相当分の現金を破産財団に組み入れることができれば、財産を保有することが可能となります。
給与所得者と個人事業主で、自己破産の手続に違いはあるのか。
- 具体例
収入を得る手段は、大きく分けて、給料を得るという方法と、自営業(個人事業)を営むことで所得を得るという2つの手段があります。給与所得者と個人事業主との大きな違いは、買掛金や売掛金などのいわゆる「かけ取引」が行われるかどうか、という点にあり、個人事業主ではこの「かけ取引」が行われることが多いです。この違いが、自己破産の手続にどのような違いをもたらすのか、問題になります。
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対処方法
給与所得者においては、自己破産の申立をしても、その給料が債権者への配当財産になるということは原則ありません。生活の糧である給料が配当財産になってしまえば、破産者が生活できなくなってしまうからです。
確かに、給料も、原則として4分の1は、差押えは可能であるため、本来は、その4分の1は配当財産として組み入れが必要な気もします。しかし、実務では、給料であれば、原則として、配当財産への組み入れは行われておりません。
これに対し、個人事業主のように、「かけ取引」が行われている場合、原則として、開始決定日(東京地方裁判所では、破産申立の翌週水曜日午後5時に指定されることが多いです)に発生している買掛金は破産債権となります。また、開始決定日に発生している売掛金は、原則として破産財団への組み入れが必要となります。
もちろん、事案によっては、自由財産の拡張により、売掛金の全部または一部が自由財産の範囲として認められることがあります。特に、自由財産としなければ、破産者の生活に支障が生じる場合には、自由財産の範囲として認められる可能性が高まるでしょう。ただし、個人事業主での事業を継続しての破産を行うには、慎重に行う必要があります。
自己破産まとめ
自己破産とは、債務の免責を得られる反面、保有財産のほとんどを換価しなければならないというデメリットがあります。
ただし、自由財産の範囲を活用することにより、そのデメリットを可能な限り抑えることが可能です。
自己破産をするにあたっても、計画性をもって手続を行う必要があるでしょう。
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