婚姻費用や養育費の算出方法とは?
離婚離婚を含む男女問題の案件において、婚姻費用や養育費の金額は、必ずと言って良いほど問題になります。
婚姻費用とは、夫婦間で必要と認められる生活費のことであり、婚姻期間中、夫婦が別居した場合、収入が少ない方が、収入が多い方に対して請求する権利を意味します。
他方、養育費とは、離婚した後、子どもの面倒を見ている親が、他方の親に対して請求することができる、子どもが成長するために必要な費用を意味します。
婚姻費用と養育費の金額は、夫婦のお互いの収入や子どもの数及び年齢などから、最高裁判所が公表する婚姻費用、養育費の算定表を基に算出することになります。
この婚姻費用、養育費の算定表についてですが、令和元年12月23日に、新しい算定基準が最高裁判所のホームページに公開されたことで、従来よりも、婚姻費用や養育費の金額が増額する傾向となりました。
ホームページで公開された内容においては、それぞれの一般的なケースごとの婚姻費用や養育費のグラフが掲載されていますので、概ねの婚姻費用や養育費については分かるようになっています。しかし、どのような計算式に基づいているのかという点につきましては、分かりにくいところもあるかと思います。
そこで、本記事では、新しい基準による婚姻費用と養育費の具体的な算出方法について、具体例を用いながら、ご説明したいと思います。
婚姻費用の算出方法について

婚姻費用を算出するには、まずは夫婦の年収額を確認する必要があります。
本記事では、計算の便宜上、夫の年収額が700万円(給与、額面)、妻の年収額が500万円(給与、額面)、両者の間には、16歳の子どもと10歳の子どもがいるところ、夫と妻が別居し、妻が子ども達と同居していると仮定します。このような例の場合には、夫が婚姻費用の支払義務者となり、妻が権利者となります。
夫婦の年収額を確認した後、権利者及び義務者の「基礎収入」を算出します。
基礎収入は、給与が525万円を超え、725万円以下の場合、給与総額に0.41を乗じた金額となりますから、夫の基礎収入は、700万円×0.41より、287万円となります。(なお、自営業者の場合、基礎収入の割合は、異なる数値となりますので、注意する必要があります。)
これに対し、給与が275万円を超え、525万円以下の場合、総額に0.42を乗じた金額が基礎収入となりますので、妻の基礎収入は、500万円×0.42より、210万円となります。
なお、令和元年12月23日に公表された新しい算定基準においては、基礎収入の割合が従来よりも増えたことが、婚姻費用や養育費の金額が増額となる一因となりました。
次に、「権利者に割り振られる婚姻費用」を算出します。
「権利者に割り振られる婚姻費用」とは、「世帯収入(権利者の基礎収入と義務者の基礎収入の合計額)」×「権利者グループの生活指数(権利者と子どもの生活指数の合計)」÷「世帯全員の生活指数(権利者グループ及び義務者の生活指数の合計)」の数式により算出します。
この生活指数についてですが、親の生活費が「100」、0歳から14歳の子どもが「62」、15歳以上の子どもが「85」となります。なお、この生活指数も、新しい算定基準により変更となりました。
先程の例を用いると、世帯収入は、287万円+210万円より、497万円となります。
権利者グループの生活指数は、妻のほか、15歳以上の子どもが1人と15歳未満の子どもが1人なので、100+62+85より、247となります。
世帯全員の生活指数は、夫の生活指数である100を加えることになりますので、100+100+62+85より、347となります。
その結果、権利者である妻に振り分けられる婚姻費用は、497万円×247÷347より、約353万7723円と算出できます。
最後に、義務者である夫から権利者である妻に支払うべき婚姻費用の分担額を算出します。
この分担額は、権利者に割り振られる婚姻費用から権利者の基礎収入を控除することで算出することになりますので、先程の例によれば、353万7723円-210万円より、143万7723円と算出できます。そして、この143万7723円を12で割ると11万9810円となり、これが月額の婚姻費用ということになります。
もっとも、夫が住宅ローンを負担している建物に妻及び子どもが居住している場合や、子どもが私立の学校に通っている場合など、特殊な事情がある場合には、婚姻費用の金額が増減する可能性があります。もっとも、これまでに述べた計算方法は婚姻費用を定めるにあたり、重要な指標となりますので、必ず参考にすべきと言えるでしょう。
養育費の算出方法について

続いて、養育費の算出方法について、ご説明いたします。
養育費を算出するにあたっても、婚姻費用と同様に、権利者及び義務者それぞれの年収額を確認した上で、基礎収入を算出することになります。
本記事では、先程の具体例を用いて、義務者(元夫)の基礎収入を287万円、権利者(元妻)の基礎収入を210万円とします。
次に、子どもが義務者と同居していると仮定すれば、子のために費消されていたはずの生活費(子の生活費)を算定します。
「子の生活費」は、「義務者の基礎収入」×「子の指数(62または85)」÷「義務者の指数+子の指数(100+62または85)」により、算出します。
先程の例によると、287万円×(62+85)÷(100+62+85)より、約170万8056円と算出できます。
さらに、算出した「子の生活費」を義務者と権利者の基礎収入の割合で按分し、義務者が分担すべき養育費の額を算定します。
つまり、「義務者の負担すべき養育費の額」を「子の生活費」×「義務者の基礎収入」÷「義務者の基礎収入+権利者の基礎収入」という数式に当てはめて算出します。
先程の例によると、義務者である元夫の負担すべき養育費の額は、170万8056円×287万円÷(287万円+210万円)より、98万6342円と算出できます。
そして、この98万6342円を12で割ると8万2195円と算出でき、これが月額の養育費となります。
もっとも、婚姻費用と同様、元夫が住宅ローンを支払っている建物に妻と子どもが居住している場合や、子どもが私立の学校に通っている場合など、特殊な事情がある場合には、養育費の金額が増減する可能性があります。
また、子どもが成長するにつれて、進学するなど、特別な事情がある場合には、月々の養育費以外にも、元夫はその費用を支払う必要がある可能性があります。上記養育費の金額はあくまで目安ということになりますが、婚姻費用と同様、その金額が重要な指標になることは間違いないでしょう。
まとめ
これまで、婚姻費用と養育費の具体的な算出方法についてご説明をしてきました。
婚姻費用や養育費の金額は、夫婦ないし男女双方にとって、その生活の根幹に関わるものですから、その算出方法を詳細に確認することは極めて重要です。
もちろん、これまでにご紹介した計算式により算出した婚姻費用や養育費の金額は、個別の案件ごとに増減する可能性がありますので、確定的な金額とまでは言えません。しかし、一般的な指標となる金額になることは間違いなく、この金額を算出し、確認しておくことは、どのような案件でも不可欠と言えるでしょう。
新算定基準が公表されたように、婚姻費用や養育費を算出するにあたっては、これまでとは異なる対応が求められます。本記事が、養育費や婚姻費用について、お悩みの方の一助になることができましたら幸甚です。
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