「熟年離婚」とは、一般的には長く連れ添った夫婦が離婚することを言います。
昨今においては、団塊の世代が定年を迎える中で、熟年離婚も増加傾向となっています。
熟年離婚においては、女性側からの離婚の申出も多く、これまで定年まで働いてきた男性にとっては、突然離婚する旨告げられるという形になることも少なくありません。
熟年離婚も「離婚」であることに違いはありません。
しかし、熟年離婚に特有の問題がありますので、仮に、熟年離婚を考えている方は、その問題を十分に熟慮した上で、決断する必要があるでしょう。
熟年離婚問題とは?
まず、熟年離婚を求められたときですが、必ず離婚に応じなければならないというわけではありません。
熟年離婚の原因としては、「長年のストレスの積み重なり」などの「性格の不一致」が最も多いといえるでしょう。
しかし、熟年離婚と言っても、「離婚原因」が認められるのかどうかの判断基準は、特段差異はなく、「性格の不一致」だけでは、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当しない可能性が高いと言わざるを得ません。
そのため、「性格の不一致」の他に、別居期間が5年以上経過しているなどの事情がなければ、裁判上においては離婚が認められない可能性が高いでしょう。
したがって、もし、一方的に離婚を求められたとしても、こちらに離婚をする意思がないのであれば、無理に離婚に応じる必要はありません。
また、熟年離婚においては、財産分与が主たる争点になることが多いです。
財産分与とは、夫婦間において形成してきた財産を、原則として2分の1ずつ分与するという制度です。
これまで、相手配偶者には内密に貯めてきたお金でも半分は渡さなければならず、それがネックとなり、熟年離婚を断念される方もおられます。
もっとも、「夫婦間において形成してきた財産」には、未だ支払がなされていない「退職金」も含まれます。
熟年離婚においては、この退職金の金額も高額になることが多いので、見落としてはなりません。
さらに、年金分割も忘れてはなりません。年金分割とは、離婚する際に、厚生年金を男女で分割することができるようにする制度を言います。
2007年以降、当事者間の合意や裁判所の決定があれば、婚姻期間中の厚生年金や共済年金報酬比例部分を分割することができるようになりました。
年金分割により、将来の年金による男女間の差異が是正されたことは、熟年離婚が増加した一因となったものと思われます。
以下、熟年離婚に関して、具体例とその対処方法についてご説明致します。
熟年離婚に関して問題となるケース
退職金の使い込みを防ぐことはできないか。
- 具体例
熟年離婚の財産分与においては、「退職金」が主たる争点になることが多いです。
例えば、退職金を受給する配偶者に、ギャンブルのために借りた多額の借金があり、退職金をその借金の返済に充てようとしているケースがあります。
このような場合、退職金を確保するためにどうすれば良いのか、問題となります。
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対処方法
仮に、相手配偶者が、退職金以外の財産(不動産、預貯金等)を保有している場合には、担保金が必要となりますが、審判前の保全処分として、不動産等に対して仮差押えを行うことにより、退職金以外の財産を保全することで、回収の確保を図ります。
ただし、相手配偶者に借金等がある場合には、その他の財産を保有していないことが多いです。
他に財産が全くない場合には、退職金そのものを差し押さえることを検討しなければなりません。
退職金の支給日が未だ先の場合には難しいのですが、間近に迫っているような場合には、退職金の仮差押えが可能となってきます。
退職金の差押え上限額は、基本的に手取り額の4分の1となりますので、全額ではないのですが、一定の金額を確保することは可能でしょう。
(ただし、担保金は必要となります。)
もっとも、退職金が発生していることの証明は必要ですので、例えば、相手配偶者の雇用契約書や就業規則(退職金規定)を入手しておいた方が良いでしょう。
ただし、これらの手続を行うにあたっては、「離婚が成立する」という前提がなければなりません。
既に、離婚が成立している場合や、お互いに離婚については争いがないことが客観的に証明できる資料が必要となりますから、この点は注意する必要があるでしょう。
熟年離婚にデメリットは無いだろうか。
- 具体例
熟年離婚を決断するには、離婚することで何かデメリットはないのか、ということを十分に考えなければなりません。
離婚を考える理由は、性格の不一致のほか、親の介護を押しつけられそうになっている、子育てが終わったので自分のライフスタイルに合わせて生活していきたいなどの様々な理由があります。
しかし、熟年離婚を決断するにおいては、離婚することでのデメリットも十分に考えて決断する必要があります。
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対処方法
まず、熟年離婚でのデメリットとして、これまで相手配偶者から受け取ってきた生活費(婚姻費用)を受け取ることができなくなるということが挙げられます。
つまり、夫婦間においては相互に協力し合う義務があるので、収入の多い方は、他方の配偶者に対し、生活費(婚姻費用)を支払う必要があります。
しかし、熟年離婚をすると、この生活費(婚姻費用)を受け取ることができなくなります。
そのため、離婚後、生活費(婚姻費用)を受け取らなくとも、十分な収入を確保することができるかどうかについては慎重に検討する必要があるでしょう。
また、熟年離婚をすると、お互いの財産を分け合わなければなりません。
つまり、こちら側に、離婚するためにこれまで貯蓄してきた財産があるとしても、2分の1ずつ分与しなければならないのです。
その結果、離婚することで、かえって財産を失うということもあり、その場合には、今後の生活に多大な影響が生じることがあります。
さらに、当然ではありますが、熟年離婚をすると相続人ではなくなります。
もちろん、財産分与によりこれまで夫婦で形成してきた財産を取得することはできますが、相手配偶者の特有財産、つまり相続により取得した財産や、婚姻前から保有する財産を取得することはできません。
将来的に配偶者として相続人となれば、これら特有財産であっても、相続により取得することが可能となります。
いずれにせよ、今、離婚を選択することが本当に最良の選択なのかどうかについては、経済面も含めて十分な吟味が不可欠です。
熟年離婚の原因が不倫・浮気を理由とする場合の対処法は?
- 具体例
熟年離婚の原因が、不倫・浮気という「不貞行為」であることも少なくありません。
長年一緒に夫婦として生活をしてきたにもかかわらず、突然、相手配偶者が不倫・浮気をしていることが分かったとき、そのショックは計り知れないものであります。
熟年離婚において、不倫・浮気が発覚したとき、どのように対処すれば良いのか問題となります。
-
対処方法
まず、不倫・浮気という「不貞行為」は、民法770条1項1号の離婚事由に該当しますので、不倫・浮気をしたという証拠があれば、裁判上の離婚を求めることが可能です。
また、相手配偶者及び不倫・浮気相手に対しての慰謝料請求も可能です。
特に、熟年離婚においては婚姻期間が長いという事情がありますので、不倫・浮気という不貞行為により被った精神的損害は、通常よりも大きいものと評価され得るでしょう。
もっとも、不倫・浮気という「不貞行為」があったとしても、必ずしも離婚を選択しなければならないという訳ではありません。
熟年離婚においては、他方配偶者の収入が多く、婚姻費用の金額が高額になる場合があります。
不倫・浮気をした相手配偶者は「有責配偶者」となりますので、相手配偶者からの離婚請求は極めて難しくなります。
そのため、財産分与可能な財産が少ない場合には、婚姻関係を継続の上、婚姻費用を取得し続ける方が経済的には得策の場合もあります。
(ただし、不倫・浮気相手への慰謝料請求額は、婚姻を継続するという前提であれば、低額になる可能性があります。)
熟年離婚においては、婚姻期間が長い、相手配偶者の社会的地位が高く、収入額が多いなどの特殊な事情があります。
そのため、不倫・浮気という「不貞行為」が発覚したときも、個別事情に照らし、どのような手段を選択するのが最も良いのかを十分に検討する必要があります。
熟年離婚まとめ
熟年離婚をしたいと考えておられる方としては、今後の生活に関わる重大なことですから、離婚することが本当に最良の選択なのかどうかは十分な吟味が必要です。
その吟味にあたり、弁護士によるアドバイスを受けつつ、法律に基づく正しい手続により対処することが必要になってきますので、熟年離婚についてお悩みの方は、お気軽に当くぬぎ経営法律事務所にご相談いただければ幸いです。
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