離婚をするにあたり、これまで夫婦で形成した財産をどのように分割するのか、という問題が財産分与です。
財産分与の対象になる財産は、不動産、車両、預貯金など様々ですが、夫婦のどちらか一方が財産を管理しており、離婚時において保有する財産に不均衡が生じていることがあります。
財産分与とは、離婚において、これまで夫婦として形成してきた財産を公平に分与するという制度であり、財産を管理していない方としては、必ず検討しなければならない内容です。
離婚に伴う財産分与問題とは?
まず、離婚に伴う財産分与の具体的内容についてご説明致します。
離婚に伴う財産分与には①清算的財産分与、②扶養的財産分与、③慰謝料的財産分与の3つの種類があります。
①清算的財産分与とは、これまで夫婦間で協力して形成した財産を公平に分与するという財産分与です。離婚に伴う財産分与においては、最も中心的なものといえるでしょう。
この場合の分与の割合ですが、原則、「2分の1ずつ」ということになります。もちろん、例えば、離婚後に子どもの治療のために多額の治療費を要することが予め分かっている場合などの特段の事情がある場合に、上記割合が修正されることはあります。しかし、公平性の観点から、大幅に上記割合が修正されることは少ないでしょう。
②扶養的財産分与とは、離婚した際、一方が経済的に困窮する場合に、その困窮する者の生活を補助するという扶養的な目的でなされる財産分与を言います。例えば、離婚後も住居の確保が必要であるとし、扶養的財産分与として、一定期間、建物の使用貸借を継続して認めたという例があります(平成18年5月31日名古屋高等裁判所決定)。
③慰謝料的財産分与とは、離婚の際、慰謝料が問題となることがあり、慰謝料と財産分与は、本来性質が異なるものの、いずれも金銭の問題であるとして、財産分与に慰謝料をも加味するということがあり、このことを慰謝料的財産分与と呼びます。
次に、離婚に伴う財産分与を求めるための手続についてご説明致します。
財産分与の請求は、必ずしも離婚時に行わなければならないというわけではなく、離婚後2年以内であれば請求することが可能です。しかし、離婚してから相当程度の期間が経過してしまうと、財産が散逸してしまう可能性もあります。履行を確保することを考えると、離婚請求と同時に、財産分与についても請求した方が良いでしょう。
財産分与は、当事者間において協議が整わない場合、調停・審判を申し立てることで請求します。もっとも、離婚に付帯する請求ですから、離婚調停において和解が成立せず、離婚訴訟に移行した場合、財産分与も審判ではなく、離婚訴訟により解決することになります。
調停、審判、訴訟、いずれの裁判手続でも、財産分与においては、相手方が財産を保有していることを証する証拠が必要です。
以下、離婚に伴う財産分与に関して、具体例とその対処方法についてご説明致します。
離婚に伴う財産分与に関して問題となるケース
離婚に伴う財産分与の対象になる財産とは何か。
- 具体例
離婚に伴う財産分与の対象になる財産とは、夫婦間で協力して形成した財産を言います。ここで、夫婦間で協力した財産とは何なのか、例えば、別居した後、離婚時までに形成した財産が財産分与の対象になるのか、問題となります。
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対処方法
離婚に伴う財産分与の基準時は、一般的に「別居時」とされています。そのため、原則、別居後から離婚時までの間に形成した財産は財産分与の対象にはなりません。
もっとも、基本的に夫婦間で協力して形成した財産は財産分与の対象になりますので、退職金のように、未だ支払がなされていないものであっても、一般的に婚姻してから別居までの期間に相当する部分は、離婚に伴う財産分与の対象になると解されています。
つまり、現時点において支払が未だなされていなくとも、退職金のように、将来的に支給される高度の蓋然性のあるものであれば、離婚に伴う財産分与の対象とすることが可能なので、離婚を協議する際には絶対に見落としてはなりません。
もし、相手方が支給される退職金額を明示しない場合には、財産分与の審判ないし離婚訴訟において、調査嘱託の申立を行い、裁判所を介して勤務先にその金額の問い合わせをするということが考えられるでしょう。
相手方が財産を隠している場合、どうすれば良いのか。
- 具体例
離婚に伴う財産分与を請求するには、相手方が夫婦により形成した財産を保有していることを証明しなければなりません。例えば、不動産などは、登記簿謄本等を取り寄せることで証明することが可能ですが、預貯金については、相手方がどの金融機関の預金口座を使っているのかまで把握していないことが多いです。相手方の保有する預金口座をどのように調査すれば良いのか、問題となります。
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対処方法
相手方への郵便物等から、預金口座を保有している蓋然性があるにもかかわらず、相手方が任意に通帳等を開示しない場合には、離婚訴訟等において、調査嘱託の申立、あるいは文書送付嘱託の申立を行うことが考えられます。つまり、裁判所を介して、金融機関等に対して調査することにより、取引履歴等の資料を取り寄せることになります。
しかし、上記郵便物等も全くないという場合は、預金口座の調査は難しくなります。なぜなら、少なくとも、裁判所を介した調査を行うには、預金口座を保有しているという蓋然性があるという程度の立証が必要であり、上記郵便物等の資料が一切なければ、その立証ができないからです。
相手方が預金口座を保有していることは間違いないものの、その証拠がないという場合には、まず、弁護士会照会の申出により預金口座の存在の有無を確認します。弁護士会照会では、金融機関は詳しい取引履歴を開示しないことが多いのですが、預金口座を保有の有無については、回答してくれることがあります。
ただし、弁護士会照会の申出は、相当額の費用がかかり、また、基本的に支店名を特定して行う必要があります。
そのため、多数の金融機関に対して調査することは難しいのですが、ある特定の金融機関(支店)に預金口座を保有していることが確実ならば、このような方法も検討に値するでしょう。
いずれにせよ、相手方が任意に財産を開示しない場合には、弁護士による助言や対処等が必要になります。お早目にご相談いただけますと幸いです。
相続財産や婚姻前から保有する財産は財産分与の対象になるのか。
- 具体例
婚姻中に、一方の配偶者が相続により多額の財産を受け取る場合や、婚姻前から財産を保有していることがあります。
その際に、離婚に伴う財産分与の協議において、お互いの財産を開示したとき、これらの財産も保有財産に含まれていることがあります。
このような相続した財産や婚姻前から保有する財産も、離婚に伴う財産分与の対象に含まれるのか、問題となります。
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対処方法
離婚に伴う財産分与の対象とは、夫婦間で協力して形成してきた財産ですから、相続により取得した財産や婚姻前から保有する財産は、「特有財産」ということで、原則として財産分与の対象にはなりません。
そのため、不動産のように、登記名義から特有財産であることが明確に分かるものは、財産分与の対象とすることは難しいでしょう。
これに対し、預貯金のように、婚姻中に形成してきた財産と特有財産が混在している場合には、その分別が容易ではないため、財産分与の対象外とすることが難しくなってきます。
特有財産であるという立証は、特有財産であることを主張する者が行わなければなりませんので、明確に分別可能かどうかがポイントになってきます。
もっとも、特有財産であっても、他方配偶者が慰謝料請求権等の請求権を有している場合には差押えの対象にはなり得ます。
例えば、夫婦で形成してきた財産が全て費消され、相続した不動産などの特有財産しか残っていないということはよくあることです。このようなケースにおいて、不動産が勝手に売却され、慰謝料等を回収できない恐れがある場合には、相当額の担保金を用意しなければなりませんが、「審判前の保全処分」として不動産に仮差押えをすることが考えられます。
仮差押えをすることで、勝手に売却されることを防ぐことができますから、離婚にあたり特有財産しかない場合には検討に値するでしょう。
離婚に伴う財産分与まとめ
離婚に伴う財産分与の問題は、今後の生活にかかわる非常に重要な内容です。
もっとも、どの財産を、どのように分与するのかについては専門的な判断を要します。
弁護士によるアドバイスを受けつつ、十分な証拠を用意し、法律に基づく正しい手続により対処することが不可欠ですから、お早目にご相談いただくことをお勧め致します。
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