離婚において、未成年の子どもがいる場合には、「親権」の問題や、「養育費」の問題が必ずと言って良いほど生じてきます。
その中でも、「養育費」は、子どもの成長にかかわる重大な問題であり、離婚するにあたっては、きちんと取決めをする必要があります。
しかし、一旦取決めをしたとしても、その後に養育費が支払われなくなってしまうというケースは、残念ながら少ないとはいえません。
養育費は、子どものためにも、正しい知識を持ち、適切な手続を経ることが重要です。
養育費問題とは?
「養育費」とは、離婚した後、子どもの面倒を見ている親が、他方の親に対して請求することができる、子どもが成長するために必要な費用です。
つまり、養育費とは、子どもが成長するために必要な費用ですから、子どもの面倒を見ていない親としては、必ず支払わなければなりません。
これに対し、婚姻費用という概念があります。婚姻費用とは、婚姻をしている間に、収入の多い配偶者から、収入が少ない、または子どもの面倒を見ている親に対して支払われる費用を意味します。
養育費と婚姻費用の大きな違いは、請求者(親)自身の生活費分が含まれているかどうかという点です。
つまり、婚姻費用は、請求者自身の生活費分も含まれるので、養育費よりも高額になります。
そのため、婚姻を継続するか、離婚するかの判断においては、この婚姻費用と養育費の差額がどの程度生じるのか、という点も重要になってきます。
養育費や婚姻費用の計算方法につきましては、お互いの年収(額面)、子どもの数、年齢等から算出します。
少々複雑な計算になりますが、基本的には、平成15年(2003年)4月に東京・大阪養育費等研究会が「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」(判タ1111号285頁)において公表した養育費・婚姻費用算定表により算出されます。
なお、上記算定表に必ずしも縛られるわけではなく、例えば、子どもが私立学校に通学しているなどの特別の事情がある場合には、養育費の増額が見込まれます。
もっとも、養育費の金額をせっかく定めても、その履行が最後まで果たされないケースが多いことも事実であり、養育費支払の履行確保をどのように行うのか、問題となります。
ここで、養育費の取決めの仕方としては、大きく分けて①任意交渉での和解②裁判手続の2つがあります。
①任意交渉での和解をする場合、養育費支払の履行を確保するため、公正証書の作成をお勧め致します。公正証書があれば、仮に、養育費の支払いがなくなっても、預貯金や給与差押えなどの強制執行が可能となるからです。
②裁判手続とは、養育費を求める調停・審判を申し立てるなどの方法により行います。
これらの手続により得た調停調書、審判書などは、公正証書と同様に強制執行が可能となります。
また、調停調書や審判書により、養育費の支払い義務があるにもかかわらず、その履行がなされない場合、家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすることが可能です。
履行勧告は強制執行のように強制力はないのですが、費用がほとんどかからないので、養育費の支払いを求めるにあたっては、比較的利用しやすい手続きといえるでしょう。
以下、養育費に関する問題点につき具体例を交えてご説明致します。
養育費に関して問題となるケース
相手方が無職、行方不明の場合、養育費は受け取れないのか。
- 具体例
養育費の取決めをしても、相手方が養育費を支払わないということに加え、そもそも相手方が無職で収入が全くない、あるいは行方不明になってしまうということがあります。
このような場合でも、養育費を得ることは絶対にできないのか、問題となります。
-
対処方法
相手方が養育費を支払わない場合、子の扶養義務者である相手方の両親(祖父母)への扶養料の請求を求めるという方法があります。
昭和58年6月28日付東京高等裁判所決定によれば、父母の婚姻関係が事実上破綻して別居中であり、母が子を監護養育している場合には、母が単独で子の法定代理人として、子の扶養義務者である祖父に対して子の扶養料を請求できる旨判示しました。
つまり、祖父母は、子の直系血族ですから、民法877条1項により、扶養義務を負うことになりますから、相手方が養育費を支払わない場合には、祖父母に扶養料の請求を求めることについては、検討に値します。
もっとも、扶養料の金額は必ずしも養育費と同等の金額になるというわけではありません。
子の養育のために必要な費用や、双方の収入から決せられることになりますが、明確な基準があるわけではないので、調停・審判により解決しなければならない可能性が高いでしょう。
養育費の始期や終期はいつまでか。
- 具体例
いつからいつまでの養育費を請求できるのか、養育費を請求する際には、その始期と終期は必ず気になるところです。
また、始期、終期の問題は、婚姻費用についても、しばしば問題になります。
-
対処方法
まず、婚姻費用についてですが、裁判実務においては、始期を婚姻費用分担請求の調停・審判申立時とし、終期を別居解消または離婚成立までとしています。
そのため、別居してから相当な時間が経過していても、その間に婚姻費用を求めていなければ、婚姻費用は発生しません。
別居が開始しましたら、速やかに婚姻費用分担請求の調停・審判申立を行い、婚姻費用を請求することが必要でしょう。
次に、養育費についてですが、始期については、離婚と同時に養育費も決めている場合には離婚時となり、離婚時に決めていない場合は、離婚後の養育費の調停・審判申立時となります。
終期については一般的には、子どもが未成熟子でなくなる20歳までとされています。
もっとも、子どもが大学に入学しており、22歳までは、養育費が必要ということであれば、合意により「大学卒業時まで」と決める場合もあります。
20歳を超えていても、親には扶養義務(民法877条1項)がありますので、大学に入学している、
または、大学入学が確実である場合には、養育費の終期についても、「大学卒業まで」と求めることは不合理ではないでしょう。
養育費の支払いと面会交流はどのような関係にあるのか。
- 具体例
養育費の支払いについて協議をする過程において、子どもとの面会交流が問題になることがあります。
養育費を受け取れば、子どもと会わせなければならないのか、というご相談をいただくこともあります。養育費と面会交流はどのような関係にあるのか、問題となります。
-
対処方法
まず、養育費の問題と、面会交流の問題は、法律上は全く別の問題です。
面会交流とは、親権を有していない親と子どもが一定の時間、面会することを言います。子どもの成長において、親と子どもが面会することで、コミュニケーションを取ることが不可欠であることから、親権を有していない親に認められている権利です。
そのため、養育費の受け取りの有無にかかわらず、親権を有する親は、他方の親に対して、子どもとの面会交流に理解を示さなければなりません。
もちろん、面会交流の方法については、子どもに負担のないように行う必要があり、子の年齢や別居前、後の様子などを考慮しながら、個別に協議をしていく必要があります。
また、確かに、養育費の問題と面会交流の問題は別の問題ではありますが、調停においては一緒に協議することが多いことも事実です。
双方の親が、養育費や面会交流の重要性について理解をしつつ、前向きに協議していくことが不可欠でしょう。
養育費まとめ
養育費の問題は、子どもの成長にかかわる重大な問題です。
確かに、養育費が予定のとおりに支払われないということは、相手の収入状況等により、あり得ることではあります。
しかし、そのリスクをより低減させるには、あらかじめ適切な取り決めを行うことが不可欠であり、また、不払いになったときの対策・対処が重要となります。
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