せっかく頑張って働いてきたにもかかわらず、仕事のミスを殊更取り上げるなどして、辞めるように退職勧奨されること、ひいては仕事のミスを取り上げられ、解雇されるということは、終身雇用制度が崩れる昨今においては、残念ではありますが、あると言わざるを得ません。
しかし、労働者にとっての解雇は、生活の糧を奪われる重大な問題であります。正当な理由のある解雇であればやむを得ないかもしれませんが、理由なき解雇、つまり不当解雇は許されるものではありません。
不当解雇に対してどのように対処すれば良いのか、問題となります。
不当解雇問題とは?
まず、不当解雇とは、どのような解雇のことを意味するのかについて、ご説明致します。
解雇が認められるには、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められること」が必要です(労働契約法16条)。
しかし、この判断基準は漠然としており、その判断が難しいと言わざるを得ません。
例えば、労働者が仕事上のミスをしたとしても、それだけでは解雇は認められません。雇用主側は労働者を注意するだけでなく、どのようにすればミスを防ぐことができるのか、雇用主側も労働者と一緒に考え、教育する責任があります。仕事上のミスは雇用主側としてもカバーしていかなければならない問題なので、仕事上のミスを理由に直ちに解雇することはできないのです。
また、「勤務態度が怠慢」であった、例えば、会社を無断欠勤したとしても、直ちに解雇が許されるというわけではありません。解雇が許されるには、少なくとも、雇用主側としては、出勤の督促を何度も行い、長期間(少なくとも2週間)が経過してもなお、労働者が出勤に応じず、その欠勤に正当な理由がないという事情が必要です。
このように、解雇が認められる場合とは極めて限定的なのです。雇用者側において解雇を回避する努力を全くせずになされた解雇は、不当解雇として無効になる可能性が高いと言わざるを得ません。
労働者の生活の糧を奪う不当解雇は許されるべきではありません。もし、不当解雇を受けたと思われる場合には、お早目にご相談いただけますと幸いです。
以下、不当解雇の問題につき、具体的なご相談例を交えて、ご説明致します。
不当解雇に関して問題となるケース
生活の基盤がない中で、どのように不当解雇に対処するのか。
- 具体例
ある日、給料が支払えないなどの理由から、突然解雇されるということがないとは言えません。確かに、会社が経営難になり、破産しなければならないという場合、解雇もやむを得ない場合はあります。しかし、全く理由がない解雇、つまり不当解雇は、労働者の生活の糧を奪うものであり、許されるものではありません。
もっとも、不当解雇の無効を争う場合でも、生活基盤の無い中で争うことが厳しいことは言うまでもありません。生活の基盤がない中で、不当解雇に対してどのように対処すべきかが問題となります。
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対処方法
不合理な理由により解雇された場合、不当解雇として、解雇の無効を争うとともに、雇用契約が継続することを前提として、賃金の未払いを請求することになります。
もっとも、解雇の無効を争う中でも、賃金の未払いが長期間継続するとなれば、労働者に多大な不利益をもたらすことになってしまいます。
そこで、賃金の暫定的な支払を求めるために、賃金仮払いの仮処分申立を行います。(同時に、労働契約上の権利を有する地位を仮に定める「地位保全仮処分」を申し立てます。)
賃金仮払いの仮処分申立を行うことで、裁判所が、不当解雇であるとして解雇が無効である可能性が高く、また、賃金支払いの必要性も高いと判断した場合には、賃金の支払い継続が認められます。(なお、審尋期日の中で、和解が成立する可能性も十分にあります。)
ただし、仮処分は暫定的な措置ですから、別途、不当解雇を理由とする解雇無効と賃金の支払いを求めて裁判を起こすことになります。
裁判には、訴訟提起の他、労働審判という手続があります。労働審判は、3回以内の期日で結論が下されるので、争点が複雑で、時間をかけて審理する必要がある事案には不向きですが、比較的争点が少ない事案の場合には有効な手続です。
どのような手続を採用するのが良いのかは、個別事案によりますので、ご相談をいただく中で、どの手続きが最良なのか、判断させていただきます。
不当解雇を争うには、どのような資料を用意すれば良いのか。
- 具体例
不当解雇を争うにあたり、労働者側は、解雇が不当であることを立証しなければならないので、そのための資料は不可欠です。
もっとも、その資料とは、不当解雇に関するものでなければなりません。
特に、賃金仮払いの仮処分を行う場合、準備期間も限られてしまうことから、必要となる資料を厳選して、証拠収集を行う必要があります。
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対処方法
不当解雇を争うために、まず必要となる資料は、「解雇通知書」「解雇理由証明書」です。「解雇通知書」は、解雇されたことを証する証拠であり、「解雇理由証明書」は、雇用主側の主張する解雇の理由を証明するものです。いずれも不当解雇に関する重要資料となりますので、解雇された場合、必ず雇用主側に提出を求める必要があるでしょう。
万一、雇用主側が提出しなかった場合、①雇用主側との会話をICレコーダーで録音する、②雇用主側に、解雇理由を確認する趣旨で電子メールを送信するということが考えられます。
その他、解雇事由に関する規定が記載された「就業規則」、労働者の賃金の額等が分かる「賃金規程・退職金規程」「給与明細書(または源泉徴収票)」、解雇に至るまでの雇用主側とのやり取りを証する電子メールなどの資料は重要になってきます。
いずれにせよ、早期に証拠を収集することが必要となりますので早期の対策が重要となります。
能力が不足する労働者に対してどのように対処すればよいのか。
- 具体例
スキルが低く、仕事上のミスが多いなどの能力不足を理由として、解雇が認められるのか、ということは労働者側だけでなく、雇用主側としても気になるところです。
能力不足を理由として解雇することが不当解雇に該当しないのか、該当するとして、どのように対処すれば良いのか問題となります。
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対処方法
結論からすると、能力不足だけを理由としても、解雇するにあたって客観的合理的な理由があるとは認められないので、不当解雇になってしまう可能性が高いでしょう。雇用主側としては、労働者を教育する責任がありますから、まずは、労働者への能力向上のための策を講じる必要があります。
具体的な策についてですが、例えば、仕事のミスをどうしてしてしまうのか、労働者に対して報告書の提出を求め、ミス防止の対策を社内で協議するということは必要となるでしょう。
それでも労働者が雇用主側の指示に従わない場合、雇用主側としては、戒告、譴責、訓戒などの従業員への注意を行います。何度も注意しても改善の見込みがない場合、減給、出勤停止、降格などの処分を検討することになりますが、それでも労働者への負担は最小限に留める配慮が必要となります。
いずれにせよ、能力不足のみを理由とする解雇は不当解雇の可能性が高いと言わざるを得ません。仮に、能力不足のみを理由に解雇されたのであれば、労働者の立場としては、不当解雇であるとして解雇の無効を主張すべきであり、雇用主側の立場としては、何らかの代替手段を講ずべきことになります。
不当解雇まとめ
不当解雇は、労働者の生活の基盤を失わせるものでありますから、許されるものではありません。
ただし、不当解雇に該当するかどうかは、様々な事情より判断されなければならず、中には非常に判断が難しい事案も存在します。
不当解雇においては、弁護士のアドバイス等が有効になってくるものと思いますので、お気軽にご相談いただけますと幸いです。
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