残業代未払い

仕事をする中で、法定労働時間内で作業が終わらないという事態がどうしても生じます。
そのため、残業はどうしても必要となるわけですが、雇用主側としては、適切な手続を経た上で、法律に則った残業代を支払う必要があります。

もっとも、現実的には、法律に則った残業代が支払われておらず、残業代未払いの問題が生じているケースが多いと言わざるを得ません。
その理由は様々ですが、雇用主側の方で、残業代についての正確な理解がなされていないということがしばしばあります。

残業代未払いの問題は、労働者だけではなく、雇用主側にとっても重大な問題なのです。

残業代未払い問題とは?

残業代未払いの問題の前提として、そもそも労働時間は、労働基準法により厳格に定められており、「休憩時間を除き、1日8時間以内、1週間に40時間以内」とされています。
これらの法定労働時間を超える労働は原則として許されないとされています。
また、法定休日として、「毎週少なくとも1日、または4週間に4日以上の休日」が与えられなければならないとされています。

もし、①「法定労働時間」を超えた時間外労働を課す場合、②「法定休日」に労働を課す場合には、必ず、労働基準監督署に「36協定」を提出しなければなりません。
仮に、雇用主側において、労働基準監督署に「36協定」を提出せず、法定労働時間を超えて残業させた場合には、違法残業となり、罰則(6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の対象になり得ますので、注意が必要です。(残業代未払いの問題だけでは済みません。)

「36協定」が提出されている場合には、雇用主側は一定の範囲で、労働者に残業させることができます。もっとも、当然のことながら、残業をさせた場合には、割増した賃金(残業代)を支払う必要が生じます。
割増率につき、労働基準法では、時間外労働(1日あたり8時間を超える労働時間)においては25%以上、深夜労働(午後10時から午前5時)においては25%以上、休日労働(法定休日での労働)においては35%以上の割り増し分を支払わなければならないと定められています。

なお、時間外労働かつ深夜労働の場合においては50%以上、休日労働かつ深夜労働の場合においては60%以上の割り増し分を支払わなければなりません。
仮に、これらの割り増し分が支払われていない場合には、残業代未払いの問題となります。
残業代は、労働基準法で強行法規として定められていることから、労働者との間で「残業代は発生しない」という契約を締結していても必ず発生します。

そして、残業代を支払わなければ、①付加金と②遅延損害金という二つの大きなペナルティが発生する可能性があります。
まず、①付加金とは、残業代未払い分の請求を裁判により求めた場合、裁判所は、未払い分に加え、その倍額の支払を雇用主側に命じることができるとするものです。付加金が課せられるかどうかは、裁判所の裁量によりますので、必ず課せられるというわけではありません。しかし、残業代未払いが悪質であると判断された場合、未払い分の倍額を支払わなければならない可能性があるということについては、雇用主側としては必ず認識しておく必要があります。

次に、②遅延損害金についてですが、残業代未払いを継続すると、退職前であれば商法514条の定める商事利率(年6%)、退職後であれば、賃金支払確保法6条1項、同施行令1条の定める年14.6%の遅延損害金を支払わなければならない可能性もあります。先ほどの付加金よりは低額ですが、本来、残業代未払いがなければ発生しないものです。
これらのペナルティが発生する可能性がある以上、雇用主側としては、残業代の未払いが生じないよう、労働時間の管理等については厳重に行う必要があるでしょう。

以下、残業代未払いの問題につき、具体的なご相談例を交えて、ご説明致します。

残業代未払いに関して問題となるケース

残業代未払いがある場合、どのように対処すれば良いのか。

具体例

残業代未払いが発生するケースとしては、①タイムカードによる時間管理がなされておらず、残業代未払いが生じている場合、②タイムカードに記録されていない残業分の残業代未払いが生じている場合、③深夜手当・休日手当分の割り増し分が未払いの場合など、様々です。

残業代未払いに対して、どのように対処すれば良いのか問題となります。

対処方法

残業代未払いの問題で、どのようなケースでも共通することは、「残業していたことをどのように立証するのか」、ということです。タイムカードが存在する場合には、タイムカードから労働時間を割り出し、深夜手当・休日手当を考慮した上で、残業代未払いの分を算出し、請求することになります。

 

ところが、実際には、タイムカードと実際の労働時間が乖離しており、残業代未払い分の金額を容易に算出できないというケースが多いと言わざるを得ません。このような場合、例えば、①会社のパソコンのログ(起動・シャットダウン時刻)を取得し、出退勤時間を推認する(東京地裁平成18年11月10日付判決参照)、②退出時に上司や家族に送信した電子メールの送信日時から退出時間を推認する、③PASMOなどのICカードから、交通機関を利用した履歴を取り寄せ、出退勤時間を推認する、④日々の業務日報を作成する、などの方法により実際の労働時間を立証することになります。

 

残業代未払いを請求するには、専門的な法律知識の他、その証拠を用意するために十分な準備が必要です。しかも、時効の期間が2年と短いことから、残業代未払いがあると思われる方は、できるだけ早めの対策が必要となります。

みなし残業(固定残業)制度は認められるのか。

具体例

みなし残業(固定残業)の制度(一定の残業代を固定して支払う制度)を利用している会社が多々あります。確かに、残業代の計算は非常に複雑なので、みなし残業(固定残業)の制度を採用することは、雇用主側にとってのメリットが大きいと言えます。

しかし、みなし残業(固定残業)の制度が適切なものでなければ、労働者に対して多額の残業代が未払いになってしまうという問題が生じてしまう可能性があります。

対処方法

みなし残業(固定残業)の制度が有効と認められるには、①みなし残業(固定残業)を採用することが労働契約の内容となっていること、②基本給とみなし残業(固定残業)の残業代の分が明確に区別されていること、③みなし残業(固定残業)の残業代の分を超える残業をした場合、追加の残業代が支払われていること、などの要件が必要となります。

 

つまり、労働契約や就業規則により、みなし残業(固定残業)の残業代が、どのような計算方法によって算出され、何時間分の残業に相当するものなのかについて明確である必要があります。

仮に、明確でない場合には、みなし残業(固定残業)の制度は認められず、残業代が未払いであるとして、労働者は雇用主側に対し、残業代の支払い求めることになります。なお、この場合、みなし残業(固定残業)による支払いは、基本給の一部であると解釈されることになります。

 

雇用主側で、みなし残業(固定残業)の制度を採用しているものの、その計算根拠等が明らかになっていない場合には、十分に注意しなければなりません。

管理職であれば、残業代は発生しないのか。

具体例

会社内で出世をすると、何らかの役職、つまり「管理職」という立場に置かれることがあります。

労働基準法では「管理監督者」には労働基準法の定める労働時間等に関する規定は適用されないということで、深夜手当を除き、残業代を支払わなくて良いとされています。ところが、「管理職」と「管理監督者」は必ずしもイコールではありません。

事案によっては、「管理職」という名が付いただけで、労働環境の面においては従前と全く変わらないというケース(名ばかり管理職など)も存在します。

どのような場合に「管理監督者」に該当するのか、問題となります。

対処方法

「管理監督者」に該当するかどうかは、①経営者と一体的な立場であるといえるほど重要な職務と権限を付与されていること、②労働時間等の枠を超えて事業活動することがやむを得ないといえること、③賃金等労働条件について一般労働者に比べて優遇装置が取られていること、などから判断されます(「日本マクドナルド事件」、東京地方裁判所平成20年1月28日判決参照)。

 

仮に、「管理職」という役職を与えられていても、職務、権限及び賃金などの点において従前と全く変わらない場合には「管理監督者」とは認められない可能性があります。(特に、賃金が一般労働者とどの程度異なるのかは重要なメルクマールとなります。)

 

もっとも、「管理監督者」であっても「深夜手当」については支払わなければならないとされています(最二小判平成21年12月18日)。

 

仮に、「管理職」という名目で残業代が支払われておらず、「深夜手当」も支払われていない場合には、多額の残業代未払いが発生している可能性があり、雇用主側としても十分に注意しなければならないところです。

残業代未払いまとめ

日々の業務を行う中で残業が生じてしまうケースはどうしても生じます。
しかし、残業とは、適切な手続を経た上で、適切な残業代の支払いがなされてこそ、成り立ち得るものであります。
残業代未払いは、過度な残業による労働者の健康悪化等を招きかねない重大な問題です。
もし、残業に関して不安を抱いておられる方は、お早目にご相談いただければ幸いです。

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