借地権とは、賃貸借契約等により地主から土地を借り、建物を建てて利用する場合に発生する権利です。
土地を借りていると、地主との間で、更新料、増改築などの問題でトラブルになることがあります。
その場合、借地人(土地の借主、借地権を有する者)としては、借地借家法の知識を十分に理解し、適切に対処しなければ、思わぬ損失を被ることになりかねません。
借地権問題とは?
借地権とは、土地を借りて建物を建築して利用している場合に発生する権利ですが、その権利は、借地借家法という法律で守られた、非常に強い権利となっています。
例えば、借地借家法3条、4条によると、借地権の存続期間が最低30年と定められており、更新する場合も最低10年と定められ、非常に長い契約期間となっています。そして、これらの期間より短く定めても、その内容は借地借家法9条により無効となってしまいます(強行法規)。
また、契約期間が経過し、特に、更新契約を締結していなくとも、建物が存続し、借地人が土地の使用を継続していれば、従前の契約と同一条件で契約が更新されたものとみなされます(借地借家法5条、「法定更新」)。
万一、地主から、突然、土地の明渡しなどを求められたとしても、借地権とは非常に強い権利であり、地代さえしっかり支払っていれば、原則として、その明渡しに応じる必要はないのです。
以下、借地権の問題につき、具体例を交えて、ご説明致します。
借地権に関して問題となるケース
更新料を必ず支払う必要はあるのか。
- 具体例
借地権に関して、最も問題となるケースの一つは、更新料の問題です。
一般的に、月額の地代はそれほど高額ではない場合が多いのですが、更新料として、かなり高い金額を要求されることがあります。
特に、賃貸借契約書に更新料に関する定めがないとき、更新料を支払う必要があるのかどうか、問題となります。
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対処方法
まず、賃貸借契約書に「更新料を支払う」旨の規定がない場合には、過去に何度も更新料を支払ってきたなどの更新料支払の合意を基礎づける事情がない限り、基本的には、更新料を支払う必要はないと考えて良いでしょう。
例えば、地主との間で更新契約が成立せず、借地借家法5条に基づき、賃貸借契約が法定更新された場合において、地主に更新料請求権が認められるかという点につき、最高裁判所は、「宅地賃貸借契約の法定更新に際し、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習又は事実たる慣習は存在しない」と判示し、更新料請求権を否定しています(最高裁判所昭和51年10月1日付判決)。
これに対し、「金○○○円の更新料を支払う」「更地価格の○%の更新料を支払う」と更新料の支払及びその金額がある程度具体的な場合には、更新料を支払わなければならない可能性は高いでしょう。
ただし、後者の「更地価格」については、価格をどのように算出するのか、という点で争いが生じ得ます。
いずれにせよ、地主から更新料の支払いを求められたとしても、直ちに支払わなければならないというわけではありません。賃貸借契約書の内容を十分に吟味することが不可欠でしょう。
地主が建物の増改築を承諾しないとき、どうするか。
- 具体例
一般的な賃貸借契約書によると、「事前に地主の書面による承諾がなければ、増改築は認められない」という記載がなされていることがあります。
しかし、建物の老朽化により増改築が必要不可欠であるにもかかわらず、地主が増改築を拒絶することで、増改築をすることが全くできなくなるということは明らかに不経済です。
地主が必要な増改築を認めてくれない場合は、その対処法が問題となります。
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対処方法
本来ならば、地主との仲がこじれることは良くないので、可能な限り地主の承諾を得られるように協議を重ねることが重要です。
しかし、どうしても難しい場合には、借地人は、裁判所に対し、借地借家法17条2項に基づき、地主の承諾に代わる許可を求めることができます。
この裁判は、借地非訟手続と呼ばれており、増改築が、建築基準法等の適法性、近隣住民との関係などから相当と認められる場合、裁判所が、地代などの借地条件の変更や承諾料の支払いを条件として、増改築の許可を行います。
この承諾料の金額は、増改築の内容によりますが、一般的には更地価格の3~5パーセント程度になることが多いでしょう。
いずれにしても、地主が承諾しなくとも、このような借地非訟手続が残されていますから、直ちに増改築を諦める必要はありません。
借地権を売りたいのだが、どうすれば良いのか。
- 具体例
借地権とは、借地人が死亡しても、相続人に相続されますから、借地権付きの建物を相続するということは珍しくありません。
しかし、相続人としては、その建物に居住するつもりはなく、借地権を含めてその建物を売却したいと考える方もいらっしゃいます。しかし、民法612条により、地主の承諾がなければ借地権を譲渡ができないとされています。
地主の承諾を得られない場合にどうすべきか、問題となります。
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対処方法
まず、借地権を譲渡するにあたり、早期・円満解決のために、地主との交渉は不可欠です。借地権の譲渡においては、地主に承諾料が支払われることが通常です。
その承諾料の金額は事案によりますが、一般的には、借地権価格の10パーセント程度が相場とされています。(なお、譲受人が、将来的に借地権を相続により承継する者であれば、より低い割合になることが多いです 。)この借地権価格の評価としては、実際の売買代金額を基に算出することが多いでしょう。
仮に、借地権を譲渡しても、地主に何ら不利益となる恐れがないにもかかわらず、地主からの承諾を得られない場合、借地借家法19条に基づき、裁判所の許可を得た上で、第三者に借地権を譲渡することが可能です(借地非訟手続)。
その場合、借地条件の変更(地代の変更等)や財産上の給付(承諾料)を裁判所が命じることがあります。この財産上の給付も、事案によりますが、一般的には借地権価格の10パーセント程度が相場とされています。
地主との協議がどうしてもまとまらない場合には、このような借地非訟手続を利用することも一考に値するでしょう。
借地権まとめ
借地権とは、借地借家法により守られていることで、借地人にとっては非常に強い権利です。
しかし、実際には、その借地借家法の知識を知らずに、地主からの求めに応じてしまい、思わぬ損失を被ることがあることは否定できません。
借地権付きの建物は、東京都内には数多くあります。借地権に関する正しい知識を持って、適切に対処することが必要です。
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