土地や建物の賃料額は、賃貸借契約書に定められており、賃借人としては、この定められた金額を支払えば良いことになります。しかし、その後、年月が経過するにつれて、賃料額が一般的な相場からすると、不相当な金額になってしまうことがあります。
このような場合、賃貸人もしくは賃借人は、借地借家法11条、32条に基づき、賃料増額請求、賃料減額請求を行うことができます。
もっとも、どのような場合に賃料増額・賃料減額請求ができるのか、できるとして、その増減額の範囲はどの程度なのかについては、しばしば問題になるテーマです。
賃料増額や賃料減額が認められるには?
借地借家法11条、32条によれば、①租税等の負担の増減、②土地や建物の価格の上昇や低下、③その他経済事情の変動、④近傍類似の物件の賃料などを参考にして、現在の賃料が不相当になった場合に、賃料増額や賃料減額が可能である旨定められています。
例えば、消費税が8%から10%になった際、事務所(事業用)として賃貸している建物について、その消費税増額分を値上げすることは、賃貸借契約の内容にもよりますが、可能でしょう。
これに対し、市場の変化や周辺相場の物件から見て、賃料が不相当であるということを理由とする場合には、不相当であることを立証するために、一般的には不動産鑑定が必要となります。不動産鑑定には、相当額の費用がかかりますが、立証手段として、必要になるケースが多いでしょう。
賃料増額請求・賃料減額請求の方法
賃料増額請求や賃料減額請求は、形成権の行使ということで、相手方に賃料増額・減額の意思表示が到達した時点でその効果が発生します(昭和45年6月4日付最高裁第一小法廷判決参照)。
もっとも、意思表示が到達したことを客観的に証明する必要があります。証拠を残すということで、賃料増額請求や賃料減額請求を行うには、配達証明付きの内容証明郵便を利用すると良いでしょう。
賃料増額や賃料減額に必ず応じなければならないのか?
賃料増額請求や賃料減額請求の意思表示が到達した時点で効果が発生するとしても、これらの請求を受けたときに、必ずその要求に応じなければならないというわけではありません。
請求された賃料の増減額が相当でない場合もあるので、基本的には、従前と同額の賃料を支払っていれば、債務不履行にはなりません(借地借家法11条2項、3項、借地借家法32条2項、3項)。従前と同様の賃料を支払いながら、賃貸人ないし賃借人との協議を重ねることが必要です。
もっとも、裁判により、新たな賃料額が確定した場合、その従前の賃料との差額分を、請求時に遡り支払う必要があります。その上、年1割の利息を付して支払う必要があるので(借地借家法11条2項、3項、借地借家法32条2項、3項)、あまりに長きにわたり争いを継続することはリスクがありますから、十分に注意しなければなりません。
賃料増額・減額請求の調停
賃貸人と賃借人が協議を尽くしても、どうしても協議が整わない場合には、裁判により解決しなければなりません。
賃料増額や賃料減額については、調停前置主義(民事調停法24条の2)により、まずは、調停の申立を行うことになります。調停とは、裁判所において、調停委員を交えて、相手方との協議をするという手続です。当事者間での話し合いでは交渉が決裂しても、調停委員を交えて協議することで、和解が成立することがあります。和解が成立する場合には、調停調書という和解書を締結することになります。和解においては、賃料以外にも、様々な取り決めを行うことができます。例えば、一定期間は、賃料の増額及び減額をしないという取り決めをすれば、その後の市況の変化等があっても、賃料について争いになることを防ぐことができます。
賃料増額・減額請求の訴訟
仮に、調停が成立しない場合には、賃料増額・減額請求の訴訟を提起することになります。訴訟においても和解の協議がなされることになりますが、これまでの交渉の経過からすると、早期の和解成立は難しいと言わざるを得ません。
一般的には、適切な賃料額を算出するために、私的な鑑定とは別に、裁判所による鑑定がなされることになります。もっとも、鑑定費用は、相当額に上ります。そのため、賃料増額・減額による経済的利益よりも、その鑑定費用の負担の方が大きい場合もありますから、訴訟により解決するかどうかは、十分に吟味する必要があります。
弁護士が介入することの意義
賃料増額・減額については、調停前置主義が採用されているように、賃貸人と賃借人の協議が何より重要となります。もっとも、賃貸人と賃借人だけの協議では、十分な議論ができないという場面が多々あります。法律的な知識も必要となりますから、交渉の場に弁護士が介入する意義は大きいでしょう。賃料増額・減額についてお悩みの方は、くぬぎ経営法律事務所にお気軽にご相談いただければ幸いです。
おすすめの記事
遺産・相続遺産・相続問題は、昨今の高齢化社会の中、年々増加しています。 もっとも、遺産・相続問題は、…
遺言遺言は、一般的には「ゆいごん」と言われることが多いのですが、法律的には「いごん」と言います…
遺留分遺留分は、請求できる期間に制限があるなど、その行使方法や評価方法などが複雑です。 そのため…
相続税相続においては、遺産の分配方法だけでなく、相続税という税金の問題も生じます。 確かに、相続…
交通事故交通事故とは、何の前触れもなく、突然起きてしまいます。 しかし、被害に遭われる方のほとんど…
後遺障害交通事故によって傷害を受けた際、治療を継続しても完全に完治せず、後遺障害が残ってしまうこと…
休業損害(休業補償)交通事故に遭うと、治療費だけではなく、治療を行うための病院への入通院により、仕事を休まざる…
熟年離婚「熟年離婚」とは、一般的には長く連れ添った夫婦が離婚することを言います。 昨今においては、…
不倫・浮気による慰謝料離婚・男女問題では、配偶者の不倫・浮気を理由として、慰謝料を請求したいというご相談が最も多…