個人であれ、法人であれ、建物を借りる、あるいは貸すということは多々あり、その用途は、住居、事務所、店舗など、実に様々です。
もっとも、未来永劫に建物の貸し借りを継続するということはありません。いずれは借主が建物を明け渡すことになります。
しかし、賃貸借契約においては、「建物の明渡し」の段階においてトラブルになることが多く、それが大きな特徴と言えます。
建物の明渡しにおいて、家主(オーナー)、借主としては、それぞれどのような対応をすれば良いのか、問題となります。
建物の明渡し問題とは?
「建物の明渡し」のトラブル事例として、最も代表的な例は、借主が賃料を支払わず、また、明け渡してもくれないという事例です。
賃貸借契約においては、借主は建物を使用する限り、家主(オーナー)に対して賃料を支払い続けなければなりません。
仮に、賃料の支払いを怠った場合、借主は賃料の支払義務を履行しなかったわけですから、債務不履行になります。
このような場合、家主(オーナー)側は、借主に対し、内容証明郵便等を利用して賃料の支払いを催促します。
そして、催促から相当な期間が経過しても、借主が賃料の支払いを怠った場合には、家主(オーナー)側は、賃貸借契約を解除することになります。
ただし、賃貸借契約を解除しても、借主が退去してくれない場合、家主(オーナー)側としては裁判手続を採らなければなりません。
具体的には、裁判所に対し、建物明渡請求訴訟を提起します。そして、判決(債務名義)を取得し、それでも借主が立ち退かない場合には、強制執行手続を行います。
強制執行手続は、執行官や執行業者との打ち合わせをし、明渡しの催告を行い、それでも借主が明渡しをしなければ断行という強制的に荷物を運び出すという手続となります。
ここで、気を付けなければならないのは、強制執行手続においては、一般的に高額な費用がかかることです。
建物や荷物の規模によりますが、50万円から100万円程度は必要になると考えておいた方が良いでしょう。
以下、建物の明渡しの問題につき、具体例を交えて、ご説明致します。
建物の明渡しに関して問題となるケース
借主が行方不明の場合には、どうすれば良いのか。
- 具体例
借主から賃料の支払いがなく、また、連絡が取れず、行方不明であるということは、意外に少なくありません。
このような場合、家主(オーナー)側として、どのように対処すれば良いのか、問題となります。
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対処方法
借主が行方不明の場合でも、家主(オーナー)側が借主の荷物を勝手に処分することはできません(自力救済の禁止)。そのため、裁判手続を利用しなければならないことは変わり有りません。
建物明渡請求訴訟を提起することになりますが、借主が行方不明の場合には、送達することができません。その場合には、借主が借りている建物を現地調査し、調査の結果、付郵便送達や公示送達という訴状の送達方法を採ります。(当くぬぎ経営法律事務所では、建物の明渡しの事案においては、建物の状況を把握するため、原則、訴訟提起前に現地調査を行うようにしております。)
付郵便送達とは、電気メーターが回っている、郵便受けに郵便物が入っていないなどの借主が建物内に居住している可能性が高いにもかかわらず、借主が訴状を受け取らない場合の送達方法です。この送達により、裁判所から訴状は発せられたときに、借主に送達されたとみなされることになります。
公示送達とは、電気メーターが回っていないなど、借主が建物内に居住している可能性が低く、借主の居所が分からない場合の手続です。裁判所書記官が訴状等を保管し、いつでも交付することを裁判所の掲示版に掲示し、2週間が経過すると、訴状が送達されたとみなされます。
その後は、裁判所による判決(債務名義)を得た後、強制執行手続を行うことになります。
いずれにせよ、借主が行方不明であったとしても、借主の荷物を勝手に処分することはできず、適切な法的手続を経る必要があります。お早目に、ご相談いただけますと幸いです。
建物内に借主以外の第三者が居住していた場合にどうすべきか。
- 具体例
建物の明渡しを求める訴訟を提起し、勝訴判決を取得しても、借主が任意に立ち退かない場合には、強制執行の手続を採る必要があります。
しかし、強制執行の段階で、借主以外の第三者が建物内で居住している場合があります。
このような場合、第三者にも強制執行の効力を及ぼすことができるのか問題となります。
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対処方法
勝訴判決を得ても、その効力が及ぶのは、原則として被告である借主とその占有補助者(借主の家族など)に限ります。そのため、借主以外にも占有者がいたと判断された場合、その占有者に対しても、別途訴訟を提起しなければならなくなります。
このような場合に備えて、訴訟提起する前に現地調査を行います。借主の部屋の中に勝手に入ることはできないため、調査に限りはありますが、借主の居住状況について、可能な限りの調査を尽くす必要があるでしょう。
仮に、借主以外の占有者が居住している可能性がある場合、「占有移転禁止の仮処分の申立」を検討することになります。「占有移転禁止の仮処分」を行うことで、建物の室内の状況を把握することができるとともに、借主からの承継人に対しても、強制執行手続の効力を及ぼすことが可能となります。(ただし、担保金などを用意しなければならず、申立をするかどうかは慎重に検討する必要があります。)
建物の明渡しにおいては、誰が建物に居住しているのか、その占有状況の把握が極めて重要となります。
建物の老朽化を理由に建物の明渡しを求められた場合にどうすべきか。
- 具体例
借主に賃料の不払いがなくとも、家主(オーナー)側から、建物の老朽化を理由として、賃貸借契約の期間満了時に、契約の更新を認めないとして明渡しを求められるということがあります。
このような場合、借主側から、期間が満了している以上、建物を明け渡さなければならないのか、問題となります。
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対処方法
まず、家主(オーナー)側が賃貸借契約の更新拒絶を行うには、借地借家法26条1項に基づき、期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新拒絶の通知をしなければなりません。(もし、期間が満了しても借主が建物を使用し続ける場合には、家主(オーナー)側は、遅滞なく異議を述べなければなりません。)
もっとも、更新拒絶の通知をすれば良いというものではなく、更新拒絶が認められるための正当事由が必要となります。
正当事由があるかどうかの判断は様々な要素に基づき行われることになりますが、建物の老朽化を理由とする場合には、①建物が老朽化を基礎づけるような耐震診断報告書等、②借主の転居先の候補となる代替物件の提示、③立退料が必要となることが多いです。
特に、争点となるのは③立退料です。この立退料の金額は低額ではありません。事案によりますが(店舗なのか、事務所なのか、居住用なのか)、賃料の30か月分程度(東京地方裁判所平成23年6月23日付判決)は大まかな目安になるでしょう。もし、立退料の金額について当事者間で折り合いがつかない場合には、裁判所による不動産鑑定によってその金額が決せられます。
家主(オーナー)側から、非常に低額な立退料での立ち退きを求められている場合には、くぬぎ経営法律事務所にご相談いただけますと幸いです。
建物の明渡しまとめ
建物の明渡しを求める場合の対処法は、個々の事案により様々ですが、自力救済が禁止されていますので、借主の所有物を勝手に処分することなどは絶対に許されません。そのため、仮に借主が行方不明になっていても、必ず法的な手続を経なければなりません。
また、借主側としても、建物の老朽化を理由として建物の明渡しを求められた場合には、適切な補償がなされなければならず、そのための交渉が極めて重要となります。
建物の明渡しは、家主(オーナー)側でも、借主側であっても、専門的な知識を持った上で、適切な手続を経る必要があります。建物の明渡しにつきお困りの方は、当くぬぎ経営法律事務所にご相談いただけますと幸いです。
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