交通事故における休業損害と休業補償

交通事故における休業損害と休業補償 はじめに

交通事故には、大きく分けて、物損事故と人身事故があります。

 

物損事故では、その損害として、車両の修理代や修理期間中の代車代などが損害となり得ます。他方、人身事故では、治療費、交通費、入通院慰謝料、休業損害(休業補償)などが損害となり得ます。仮に、後遺症(後遺障害)がある場合には、後遺症慰謝料や逸失利益も損害となり得ることになります。

 

本ブログでは、交通事故の損害の中でも、「休業損害(休業補償)」に焦点を当てて、ご説明したいと思います。

 

休業損害と休業補償の違い

まず、休業損害と休業補償とは何か、という点についてご説明致します。

 

休業損害も休業補償も、交通事故で負傷し、働くことができなくなった期間の損失分を補償するという意味では、同じと言えます。

 

しかし、厳密にいえば、両者は異なる概念です。「休業損害」とは、加害者に対し、被害者が働くことができなくなった期間の損害につき、損害賠償請求する場合などに使う言葉です。例えば、加害者が加入する自賠責保険会社に対して上記損害分を請求する場合や、加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起する際、この「休業損害」という言葉を使います。

 

これに対し、「休業補償」とは、「労災保険」によって支払われる休業期間に対する補償金を意味します。休業補償を受けるには、労働基準監督署による「労災認定」を受けなければなりません。労災認定を受けるには、「業務上の事由又は通勤による」交通事故である必要があり、例えば、バスやタクシーの運転手の方が交通事故に遭われた場合や、通勤の途中で生じた交通事故の場合には、この労災認定を受けられる可能性があります。

 

以下、休業損害や休業補償の請求方法などについてご説明致します。

 

休業損害の請求方法

休業損害の請求方法 画像

休業損害を請求する方法として、大きく分けて、①加害者が加入する自賠責保険会社に対して被害者請求をする方法、②加害者が加入する任意保険会社に対して請求する方法、③加害者に対して訴訟提起をすることで請求する方法の3つの方法があります。

 

まず、①加害者が加入する自賠責保険会社に対して被害者請求をする方法ですが、この方法は、加害者との間で示談が成立する前に休業損害分(一部)を回収することができる点や、被害者に重過失(被害者の過失割合7割以上)がなければ、過失相殺がされないという点がメリットとして挙げられます。もっとも、自賠責保険において認められる範囲は、原則として、1日あたり5700円と決められています。立証資料等によって、これ以上の収入があったことが証明できる場合には、1日あたり1万9000円を限度として支払いがなされることもありますが、一般的には、全ての休業損害分を補填するには足りないといえるでしょう。(しかも、自賠責保険では、治療費や慰謝料全てを含めて120万円が上限とされています。)

 

次に、②加害者が加入する任意保険会社に対して請求する方法が挙げられます。どの程度の休業損害が支払われるのかについては、任意保険会社の基準に従うことになります。治療費と同様に、休業損害分についても、一定の期間分であれば、示談が成立していなくとも、支払われることがありますので、まずは任意保険会社に対して請求を試みることが一般的です。

 

最後に、③加害者に対して訴訟提起をすることで請求する方法についてご説明致します。被害者請求では自賠責保険の範囲でしか休業損害が認められず、任意保険会社との交渉でも、休業損害分が全て補償されるというわけではありません。また、その他、慰謝料などの面において、任意保険会社との交渉が決裂するようなことがあれば、訴訟提起により解決をせざるを得ず、休業損害分についても、最終的に訴訟で解決するということは、しばしば行われることです。

 

休業損害の計算方法としては、一般的には、源泉徴収票などを基に、1日あたりの基礎収入を算出した上で、休業日数を乗ずることで算出します。例えば、被害者の収入が年額600万円(額面)であり、2か月休業したということであれば、600万円÷365日×60日により、休業損害分は約98万6300円と算出できます。

 

これらのいずれの方法によるかは、個別具体的な事案に応じて検討することになります。もっとも、いずれの場合でも、被害者が休業したことを証明するために、勤務先から休業損害証明書を発行してもらうことや、被害者の収入状況を証するために、源泉徴収票や給与明細書を用意することは必要になるでしょう。

 

休業損害の請求者

休業損害を請求するには、既に述べた3つの方法がありますが、休業損害を請求することができる方(請求者)とは、どのような方なのかという点もしばしば問題になります。

 

会社員の方は、勤務先から休業損害証明書を発行してもらうことで、休業の事実を証明し、源泉徴収票などからその休業損害額を算出することで、休業損害の請求者となり得ます。

 

しかし、交通事故当時に収入がなかった方にとっては、収入を証するものがないことで、休業損害の請求を諦めがちになってしまいます。しかし、以下のようなケースでは、休業損害の請求者となり得るので注意が必要です。

 

例えば、家事従事者(専業主婦)の場合、昭和50年7月8日付最高裁判所第三小法廷判決が、家事労働が財産上の利益を生ずるものであるとしており、休業損害の発生を認めているので、収入がなくとも休業損害が認められ得ることになります。

 

そして、この場合、賃金センサスを基準として休業損害額を算出します。家事が従事できないという期間については、入通院期間や負傷状況などから、個別に判断されますが、被害者の方が家事従事者(専業主婦)の場合には、休業損額の請求について諦めるべきではありません。

 

また、交通事故に遭った当時、偶然失業中であったという被害者の方も、休業損害が認められる場合があります。例えば、既に内定が決まっており、収入を得られる蓋然性が高いという場合には、決定している給与額や賃金センサスなどから休業損害額を算出することで、休業損害が認められる可能性があります。

 

このように、たとえ交通事故当時に無収入であった場合でも、休業損害の請求者となり得る場合がありますから、簡単に休業損害の請求を諦めるべきではないでしょう。

 

労災保険が適用される場合とは

労災保険が適用される場合とは 画像

これまで、休業損害について具体的にご説明してきましたが、今度は、労災保険における休業補償につきご説明致します。

 

労災保険とは、労働者が業務中や通勤途中に怪我をした場合などに適用される保険であり、この怪我とは、交通事故によって生じる場合にも該当します。

 

例えば、バスやタクシーなど、日々の仕事(業務)において車を使用している方にとって、業務時間中に交通事故に遭ってしまうということは、十分に考えられることです。このような場合には、「業務上の事由…による労働者の負傷」(労働者災害補償保険法第1条)として、労災保険の適用が認められ得ることになります。

 

また、勤務先への通勤のために車を使用している方が、通勤中に交通事故に遭った場合にも、「通勤による労働者の負傷」(労働者災害補償保険法第1条)ということで、労災保険の適用が認められる可能性があります。

 

業務中や通勤中に交通事故に遭遇した場合には、労災保険の適用についても検討することになります。

 

労災保険における休業補償の範囲

前述のとおり、勤務中または通勤中の交通事故によって負傷した場合には、労災保険の適用があります。そして、交通事故が原因で、労働することができず、賃金を受けていないときは、休業が始まって4日目から、「休業補償」を受け取ることが可能となります。

 

この休業補償には、「休業(補償)給付」と「休業特別支給金」の2種類があります。

 

「休業(補償)給付」の金額は、事故前の直近3か月の給与から1日あたりの収入を算出し、これに休業日数を乗じた金額の60%と定められています。

 

これに対し、「休業特別支給金」とは、1日あたりの上記収入に休業日数を乗じた金額の20%とされています。

ここで、労災保険により、これら「休業(補償)給付」や「休業特別支給金」を受け取った後、別途、加害者から休業損害を受け取ることができるのか問題となります。

 

この点、「休業(補償)給付」として被害者が受け取った分については、損害を填補するものとして受け取っている以上、その分は休業損害額から控除されることになります。

 

これに対し、「休業特別支給金」は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために支給されるものとして、休業損害額から控除されないことが判例により認められています(平成8年2月23日付最高裁判所第二小法廷判決)。そのため、労災保険が適用されるケースであれば、休業特別支給金を受け取ることには、大きな意味があるといえるでしょう。

 

休業損害と休業補償のまとめ

これまで休業損害と休業補償につきご説明をしてきました。交通事故に遭ってしまうと、その治療のために、仕事を休む必要がどうしても生じてしまいます。その際に、何らかの形で休業したことの損失分を填補してもらう必要があるのですが、どのように請求すべきか、その金額はいくらになるのかは、個別の事案により様々です。

 

休業損害ないし休業補償についてお悩みの方は、くぬぎ経営法律事務所にお気軽にご相談いただければ幸いです。

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