逸失利益

例えば、交通事故により後遺障害が残ってしまうと、身体の不自由から、これまでと同じように仕事等ができなくなってしまうことがあります。
このような場合、後遺障害が残ってしまったがために、本来得られたはず収入(利益)が得られなくなるという損害が生じることがあり、被害者の方としては、この分の損害も賠償してもらわなければなりません。
このような本来得られたはずの利益のことを「逸失利益」と言い、逸失利益分の損害が生じる場合には、被害者の方は、加害者に対し、この逸失利益分を、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき請求することになります。
以下、逸失利益について、詳しくご説明致します。

逸失利益問題とは?

逸失利益には、大きく分けて、後遺障害による逸失利益(後遺障害逸失利益)と死亡による逸失利益(死亡逸失利益)の2種類があります。
(いずれも、不法行為による損害賠償として請求することになります。)

後遺障害逸失利益」とは、後遺障害が残り、その結果、労働能力が喪失したことで、失われた将来の収入(利益)分を意味します。
後遺障害逸失利益の計算方法は、「①基礎収入(年額)×②後遺障害による労働能力喪失率×③労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数」により算出します。

まず、基礎収入(年額)(①)は、交通事故前の前年度の収入を基にします。
源泉徴収票や課税証明書などを使用して立証することが多いでしょう。
また、後遺障害による労働能力喪失率(②)は、後遺障害の等級別に定められています。
例えば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(第12級13号)に該当すれば、労働能力喪失率は14%、「局部に神経症状を残すもの」(第14級9号)に該当すれば、労働能力喪失率は5%とされています。

さらに、労働能力喪失期間(③)とは、一般的に、症状固定日を始期とし、67歳を終期とした期間のことを言います。
また、ライプニッツ係数(③)とは、将来受け取るはずの金銭を前倒しで受けるために得られた利益を控除するために使う指数です。

なお、後遺障害が神経症状の場合には、逸失利益の労働能力喪失期間が制限されることが多いです。
個別具体的な事情によりますが、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(第12級13号)であれば10年、「局部に神経症状を残すもの」(第14級9号)であれば5年が基準になることが多いでしょう。

他方、「死亡逸失利益」とは、交通事故によって死亡しなければ得られたはずの収入(利益)分を意味します。

死亡逸失利益の計算方法は、「①基礎収入(年額)×②(1-生活費控除率)× ③稼働可能期間に対応するライプニッツ係数」により算出します。
まず、基礎収入(年額)(①)は、後遺障害逸失利益と同様に、交通事故前の前年度の収入を基にします。
また、(1-生活費控除率)(②)についてですが、被害者が交通事故により死亡すると、被害者により本来得られたはずの収入(利益)分が得られなくなりますが、被害者が費やすはずであった生活費分も免れることになります。

生活費控除率」とは、この生活費の費消分を意味します。
この控除率は、被害者により様々であり、例えば、一般的に、独身男性の生活費控除率は50%、一家の支柱で被扶養者が1人の場合の生活費控除率は40%とされています。

さらに、稼働可能期間(③)とは、一般的に、死亡日を始期とし、67歳を終期とした期間のことを言います。
ライプニッツ係数(③)とは、先ほどと同様、将来受け取るはずの金銭を前倒しで受けるために得られた利益を控除するために使う指数です。

「後遺障害」、「死亡」のいずれであっても、「逸失利益」による損害が発生している場合、被害者は、加害者(あるいは相手任意保険会社)に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、その損害分の賠償を請求することになります。

以下、逸失利益について、具体例を交えながら、詳しくご説明致します。

逸失利益に関して問題となるケース

無職の場合に逸失利益は認められるのか。

具体例

逸失利益とは将来、本来得られるべきであった収入(利益)分を意味します。

そのため、家事従事者(専業主婦)や失業中の場合など、実際に収入を得ていないとき、逸失利益分の損害賠償請求が認められるのか、問題となります。

対処方法

まず、家事従事者(専業主婦)につき、判例(昭和49年7月19日最高裁判所第二小法廷判決)によれば、「家事労働に属する多くの労働は,労働社会において金銭的に評価されうるもの」と判示されています。

つまり、家事従事者においても、その労働は金銭として評価され、逸失利益(逸失利益分の損害賠償請求)が認められ得ることになります。そして、家事従事者の基礎収入は、一般的に賃金センサスを基に算出することになります。

もっとも、年齢等の事情により、家事労働能力が高いとは言えない場合、その金額が減額されることがあります。

被害者の方が、交通事故前にどのような家事労働をしていたのか、現在、どのようなことができなくなってしまったのかなどについて、陳述書や、その内容を補強する証拠を用いて詳細に主張・立証することが重要です。

他方、失業中の場合において、逸失利益(逸失利益分の損害賠償請求)が認められるには、就業の蓋然性(労働能力と労働意欲)を証明する必要があります。

具体的には、前職の源泉徴収票、給与明細書などを用いて、労働能力があることを証明します。

そして、失業に至った経緯、交通事故前の就職活動状況、就業の見込み等について、陳述書やその内容を補強する証拠を用いて主張・立証することが必要です。

いずれにしても、収入がないからといって逸失利益(逸失利益分の損害賠償請求)が認められないというわけではありません。個々の事案に応じて、主張・立証を積み重ねることが重要なのです。

高齢者の逸失利益はいつまでの分が認められるのか。

具体例

逸失利益の始期は、後遺障害逸失利益であれば「症状固定時」、死亡逸失利益であれば「死亡時」となり、終期は、いずれの場合も「67歳」となることが一般的です。

もっとも、67歳に近いご相談者・ご依頼者、あるいは67歳を超えたご相談者・ご依頼者においては、終期についてどのように算出すれば良いのか、逸失利益分の損害賠償請求をするにあたり、問題となる場合があります。

対処方法

逸失利益の終期について、67歳を超えたご相談者・ご依頼者の場合には、平均余命の2分の1を終期とすることになります。

平均余命とは、「各年齢の人が、平均してあと何年生存するかの指標」を意味します。

(0歳の子が平均して何歳まで生存するかの指標である「平均寿命」とは異なります。)

これに対し、67歳以下のご相談者・ご依頼者の場合ですが、この場合には「67歳までの期間」と「平均余命の2分の1」とを比較して長い方を終期とすることになります。

どちらを選択するかにより、逸失利益の期間に大きな違いが生じ、ひいては損害賠償の金額にも大きな違いが生じることがあります。

なお、高齢者で無職の場合、逸失利益(逸失利益分の損害賠償請求)が認められるには、「就業の蓋然性」を証明しなければなりません。被害者の資格や能力、仕事の当てなどを、陳述書やその内容を補強する証拠を用いて、主張・立証することになります。

また、高齢者で家事従事者の場合であっても、逸失利益(逸失利益分の損害賠償請求)が認められるには、これまでの家事労働の内容や、交通事故により何ができなくなってしまったのかなどにつき、具体的に主張・立証することが必要です。

年金受給者でも、逸失利益が認められるか。

具体例

年金とは稼働能力にかかわらず、受け取ることができます。

そのため、年金受給者の方が亡くなったときも逸失利益分の損害が発生しているのか問題となります。

対処方法

判例によれば、年金の種類によっては、死亡逸失利益として、損害賠償請求が認められています。

例えば、国民年金(老齢年金)(平成5年9月21日付最高裁判所第三小法廷判決)、障害基礎年金及び障害厚生年金(平成11年10月22日最高裁判所第二小法廷判決)については、死亡逸失利益の基礎収入とし、損害賠償請求が認められています。

ただし、遺族厚生年金(最三小判平成12年11月14日最高裁判所第三小法廷)については、死亡逸失利益の基礎収入として認められない(損害賠償請求が認められない)とされています。

年金の種類ごとに異なりますが、いずれにしても請求するかどうかについて、検討することが不可欠でしょう。

なお、後遺障害逸失利益については、年金が受給できなくなるわけではないことから、逸失利益の対象にはならず、損害賠償請求は認められません。

逸失利益まとめ

逸失利益とは、本来得られるはずであった収入分を補償するものでありますから、この逸失利益分の損害賠償請求権は、被害者の今後の生活の糧となる、極めて重要な権利です。
しかし、逸失利益(ひいては、損害賠償請求)が具体的にどの程度認められるのかについては、個々の事案ごとに異なるものです。
そのため、個々のご相談者・ご依頼者の状況に応じて、主張・立証を尽くす必要があります。

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